手を、つないで 〜ふたりの未来〜
次の日、早苗ちゃんとランチに出ようとしたら、エレベーターで平野さんと会った。おにぎりだけ持って来ていて、おかずを買いにお弁当屋さんに行くところ、という話を聞いて、私達もお弁当にしようかということになった。
じゃあ一緒に公園で食べたい、という平野さんの希望で、公園に来ている。仕事中は座りっぱなしなので、外に出たかったのだそう。今日はぽかぽかあったかいし、気持ちいい。
運良く空いていたベンチに三人並ぶ。早苗ちゃん、私、平野さんの順。何故か私が真ん中にされた。
「で、どうなの、中森さん」
「どうって何がですか?」
「彼氏と。うまくいってるんでしょ?聞かせてよ〜幸せ話」
「幸せ話って」
「それならたっくさん聞けますよ。なにせこれとこれですから」
早苗ちゃんが、言いながら私を指差す。ネックレスと指輪。
「やっぱり〜そうだと思って、話聞きたかったんだ〜」
平野さんと話すのは、ネックレスと指輪をつけて出社した日の朝以来。
改めて言われると恥ずかしくなってくる。両脇のテンションが高い。
「で、これは?やっぱり彼氏からのプレゼント?」
「あの、はい、そうです」
「おお〜やっぱりあれ?心配だから着けといて、的な?」
「心配……?」
「あ、平野さん、それ多分この人気付いてないです」
「えっ、気付いてない?」
「単純に誕生日プレゼントだと思ってますから」
「えっ誕生日だったの?」
「大分過ぎちゃってたんですけど……」
言いそびれて、遅い誕生日プレゼントとして一緒に買いに行った話をした。
「へえ〜誕生日を知らないとか、なんか付き合いたてって感じだよね〜うらやましい」
平野さんが遠い目をする。
「私も、旦那からの最初のプレゼントは指輪だった。ペアリング」
「えーそれもうらやましい」
「ペアリング……」
そうか、そういうのもあるんだ。彼の誕生日プレゼント、か、一周年記念にしてもいいかも。
「今、自分もペアリングにしたいなって思ってたでしょ」
早苗ちゃんが突っ込んできた。鋭い。
「あー可愛いね〜そりゃあやっぱり指輪贈りたくなるわ」
平野さんがうんうんと頷きながら、おにぎりを頬張る。旦那様が作った、おかかのおにぎり。幸せそうな表情。
「密か〜に人気ありますからね、心配なんでしょう」
「わかるわ〜」
両脇でうんうん頷き出す。
「……どういうこと?」
呟いたら、両方から交互に返ってきた。
「つまり『俺のだから手を出すな』っていう印よ」
「ただの誕生日プレゼントじゃないってこと」
え……。
「今、そんな必要ある?って思ったでしょ」
「あるのよねえ……気付いてないのは本人だけで」
また両脇でうんうんしてる。
「まあ細かいことはいいから、つけてなさいな」
「そうそう、彼氏が安心するようにね」
「はあ……」
なんとなく意味はわかるけど。そんな必要あるのかな。逆ならわかる。彼のファンは各所にいるし。
そんなことを考えると、またあの不安が湧き出てくる。もし彼が他の人を好きになってしまったら。そんなことないって信じてる。信じてるのに。
「まっほー大丈夫?」
「えっ?」
「なんか暗い顔。なんかあった?」
「彼氏と喧嘩でもしたの?」
両脇には心配してくれてる顔。
「大丈夫。大丈夫です。なんでもないです」
「そお?なんかあったら聞くから言ってね」
「私もよ」
彼、それから早苗ちゃん、平野さん。
感謝しかない。
私、周りの人にとても恵まれてる。
「ありがとうございます」
真ん中に向かってお礼。それから、両脇に笑顔で応えた。2人からも笑顔をもらった。
席に戻ったら、マウスの脇に、小さな包みが置かれていた。1つ。
チョコレートだ。私がいつも買い置きしているコーヒーチョコレート。
出しっぱなしにしちゃったかな。
包みを開けて、口に入れる。
甘くて苦いチョコレートは、頭をしゃっきりとさせてくれた。
次の日。
昼休憩から戻ったら、またマウスの横にチョコレートがあった。これは私の置き忘れじゃない。
その次の日からは、朝。出社したら、置いてある。その次は2日後。次は1日空いて3日連続で。
不規則に置いてあるチョコレート。私の好きな、コーヒー味。
心当たりは一つしかない。
「知ってる?最近噂の怪談」
資料を持ってきてくれた営業の広瀬さんが、私と早苗ちゃんの間にしゃがんで話し出す。
「かいだんって、怖い方の?」
「そう。この部屋に出るっていう話」
「こわっなんですかそれ」
「残業してると、ドアの音が聞こえるんだって。で、この部屋でゆらあ〜って動く人影が見えるって」
ゆらあ……。
「ええー、ただ誰か残ってるだけじゃないんですか?」
「この部屋の人達は帰った後だって。真っ暗な中に、ボーッと人影が浮かび上がって見えるらしいよ」
ボーっと……。
「こわーい、ざんぎょうできなーい」
早苗ちゃんの棒読みセリフがおもしろくて、広瀬さんと私は笑った。
「まあよくある話だけどね、見たって人がいるから。ウチに」
「営業に?ほんとですか?」
「うん、作倉と谷垣」
そういえば、その2人を最近見ない。ちょっと前までは結構顔を出してたのに。
「だから、早めに帰っといた方がいいかもね。もし本当の人間だったら襲われちゃうかもしれないし」
広瀬さんは、笑いながらそんなことを言って去っていった。
もしかして、誰もいなくなってから、チョコレートを置いていってるのかな?それを、朝、私が見つけてる、ってことなんだろうな、多分。
就業時間中に、この部屋から人がいなくなることは滅多にない。きっと、最初の2日は何か用事のついでに置いて行ったんだろう。そして、その後残業中にすることにしたんだ。その姿を見られて、幽霊にされちゃってるんだ。
間違いない。彼だ。
どうして黙って置いていくのか。メッセージをくれてもいいのに。だって、会えてないけどメッセージは少しだけでも毎日やり取りしてるのに。
でも嬉しい。きっと私を元気付けるために置いてってくれてるんだよね。私が好きなチョコだから。
……今日は、ちょっとだけでも電話してみようかな。