手を、つないで 〜ふたりの未来〜
3.茉歩



 どうしよう。彼の輪郭がぼやけてくる。

「それで、お互いに、笑っていられるように、していきましょう。俺は、中森さんが笑って隣にいてくれるのが、1番嬉しいので……」

 こんなことを言われたら。

 ぼやけている視界の中でも、彼が私を見たのがわかった。
「えっ?」
 ぼろぼろ涙を流している私を見て、焦っている。手が上がったり下がったり、忙しなく動く。
「えっ、えっ、あの」
「すいません」
 私の声は完全に泣き声だ。彼は更に焦る。
「あの、俺何か変なこと」
 ぶんぶんと、首を横に振る。
「違います。あの……嬉しくて」
「え、うれし……?」
 頷く。
「松永さんが、私のこと、本当に大事に思ってくれてるんだなってわかって」
 その間にも、涙はどんどん出てくる。
 ポケットにハンカチを探したけどなかった。今日は鞄に入れてたんだった。鍵だけ持って走ってきたから、涙をふくものがない。
 仕方ない手で拭ってやり過ごそう、と思ったら、彼がハンカチを出して、私のほっぺたにあてた。そうっと、壊れ物を扱うように、優しく。
 嬉しいけど恥ずかしい。思わずうつむくと、彼がふっと笑って、頭をなでた。
 彼の手のぬくもりが伝わってくる。また嬉しくなって、また涙が出てきた。
 彼は慌ててハンカチをほっぺたにあてる。
「そんなに泣かないでください……」
 苦笑してる。
「すいません……でも嬉しくて……」
 涙が止まらない。
「……怖かったんです。怒らせて、嫌われたらどうしようって。でも、松永さんが、思ってることを言ってくれて、そうじゃないってわかって、ほっとして、その上、私のこと、凄く考えてくれて、だから……」
 言っている間も、涙は出てくる。彼がハンカチだけじゃなく、ティッシュも出してくれた。鼻水も出てるし、ひどい顔になってると思う。鼻を拭こうとして、彼に見られたくなくて、背中を向けた。鼻を拭いて、彼に向き直ると、彼が笑い出した。なんで?
「すいません」
 彼は笑いながら、私の頭をぽんぽんとなでる。
「あの……どんな顔でも、俺は大丈夫ですよ。それと、さっきの」
 さっきの?
「『嫌われたらどうしよう』ってやつ。それに関しては、心配はいりません。俺が中森さんを嫌うとか、ないんで」
 彼が照れくさそうに笑う。
「涙と鼻水でぐじゃぐじゃの顔でも、か……可愛いと思ってますから……」
 最後のは、本当に小さな声。もにょもにょでも、ちゃんと聞こえた。
 突然『可愛い』とか言われて、びっくりして涙が止まった。あと『嫌うとか、ない』って。
 それって、それって……。
 その時、電車の音が聞こえた。
「あ」
 彼が腕時計を見る。あっもしかして。
「終電、来ちゃいました」
「えっ、じゃあ行ってください」
「もう間に合わないです」
「ええっ?」
 彼は平然としてる。
「とりあえず、送ります。電車降りた人、いっぱい来ると思うんで、行きましょう」
 立ち上がった彼が、手を出した。
 私は、素直に手を重ねた。
 この手を取るのをためらうことなんて、必要ない。
「はい」
 笑って、そう、言えた。



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