手を、つないで 〜ふたりの未来〜
次の日は、やっぱり寝不足気味で。
昼ご飯の後は、あくびを連発してしまった。
「まっほー寝不足?」
「んー、うん。ちょっとね」
素直に頷く。
視線を感じて向くと、早苗ちゃんが隣の席でにまにましてる。
顔を寄せて、ヒソっと言う。
「あちらも休憩スペースで仮眠してた」
え。早苗ちゃんの顔を見る。早苗ちゃんはにまにまのまま、うんうんと頷いた。
「幸せだなあ〜」
昔の歌謡曲の間奏中の語りみたいに呟く。
恥ずかしくて、顔が熱い。
「ところで、この件なんだけど」
早苗ちゃんが指差すのは、仕事の資料。
「ちょっと相談のって」
「もちろん。なになに?」
ここからは、仕事仕事。切り替えて、早苗ちゃんのモニターを覗いた。
今日のタスクは定時で終わらせた。
ビルを出たら、スマホがブルッと鳴った。
見ると、彼からメッセージ。
ーーー今日は、定時ですか?
ーーーはい。今会社を出たところです
ーーー少し時間ありますか?話したいことがあって
ーーー大丈夫です
ーーーじゃあ、駅のいつものところで。5分後に、俺も出ます
『了解です』というスタンプを送る。
話したいこと……。
なんにしろ、今日は早めに帰らなくては。彼も私も睡眠不足だ。
待ち合わせた駅のホームの1番前。少し待っていたら、彼が歩いてきた。
いつもながらかっこいい。背が高くて、塩顔のイケメン。最近改めて気付いたのは、肩幅が広いこと。背中も胸も広くて、なんか安心する。
「お待たせしました」
「お疲れ様です」
一度頭を下げ合って、顔を合わせて笑う。
この瞬間がホッとする。
「すいません、突然。予定とかありませんでしたか?」
「ないです。今日は早く帰って、早めに寝るつもりで」
そう言ったら、彼が少し赤くなって、目をそらした。
「……すいません……」
「あっあの、松永さんのせいじゃないので、私のせいでもあるし、謝らないでください……」
2人して下を向いていたら、電車が来た。
彼に、周りから守られるように電車に乗る。いつもながら、本当に安心できる。
「あの、ご飯食べますか?お話なら座った方が」
「いや、歩きながらで大丈夫です。そんな大したことではないので」
大したことじゃない……でも、メッセージじゃなくて、会って話したいことなんだよね。なんだろう、予想がつかない。
電車を降りて歩き出すと、すぐに彼が話してくれた。
「誕生日祝い?」
「はい」
私の誕生日を、改めてお祝いしたいと言う。
「俺の家で、だから凄くささやかな感じになるんですけど……」
少し顔を赤くして、苦笑してる。可愛く見えてしまって、しばし見惚れる。
「土曜日、予定ありますか?」
私がぽーっしていたからか、覗き込んで聞かれる。急接近に、心臓がびっくりした。
「いえっ、大丈夫です」
ごまかして笑う私に、彼はホッとしたみたい。
「じゃあ、土曜日」
「はい」
改めてお祝い。嬉しい。お祝いしてもらうのも嬉しいけど、私の誕生日をそんな風に大事に思ってくれてることがとても嬉しい。
嬉しくて、もう少し一緒にいたくなった。
「やっぱり、夕ご飯食べませんか?」
家に向かってはいたものの、まだ駅からそれほど離れていない。すぐ戻れる。
「でも、早く帰るつもりなんじゃ……」
「明日は休みだし、ご飯だけなら大丈夫です」
遠慮がちな彼に、力強く言ってみた。明日は金曜日だけど、祝日だから休み。
「じゃあ、中森さんのカレーが食べたいです」
え。私のカレーといえば。
「冷凍ストック、ありますよね?」
そう。私はいつも、鍋一つ分作って、余ったのは冷凍ストックにしているのだ。
「ありますけど、あれでいいんですか?」
市販のルーを使った、普通のカレーだ。
「前に食べたの、おいしかったので」
にこにこしてる彼。
彼は余り自炊はしないから、誰かが作った料理はそれだけでありがたいのだと聞いたことがある。
「あれで良ければ」
「サイコーです」
そう言って彼が笑う。その笑顔がサイコーだと思ったけど、さすがに恥ずかしくて言えなかった。