苦手な同僚の色気たっぷりな鎖骨にメロついた結果
「無理なことは無理って言うよ」
「俺とつきあって」

「は?」
 私はきょとんとした。
 急に何を言ってるんだろう。

「昨日のあれ。ピンチの俺を助けてくれたの、雪町なんだよ」
「破れた袖の?」
 聞き返すと、彼は頷く。

「そんなこと……」
 なかったはず、と記憶を辿り、

「あった!」
 私は声を上げる。

 思い出した。もう何年前だっけ? 就職試験に行く途中、赤信号を飛び出した子供を引き戻して、袖をびりっとやった眼鏡でスーツの男の子がいた!

 裁縫セットを持ってたから、ぱっと見にはわからないように縫ってあげて。同じ会社を受けるんだよね、お互い頑張ろうね、と励まし合って会場で別れたんだった。

「あのとき、絶対に同じ会社に入るって決めた。無事に一緒に入社できたけど、君はまったく覚えてなくてさ」
「だって、ぜんぜん見た目が違うよ。眼鏡も、髪も、なにもかも」

「がんばって身なりを整えたんだよ」
 そんなこと言われても。
 私の顔がしょっぱくなったのを見て、彼はくすっと笑う。
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