Secret Happiness Kiss/シークレットハピネスキス
 ◇◇◇

 12月になる頃には地元で人気なバンドになったが、その時期から徐々に桜菜はスタジオに顔を出さなくなる。完全にパッタリと来なくなり、一本の電話が入った。

 桜菜の両親から、最近学校に登校出来てなく元気がないから、家に来て欲しいと頼まれて、メンバーに相談すると全員で練習帰りに向かうことなった。

 家に着き部屋の扉をノックする。
「桜菜、メンバー皆連れてきたんだ。よかったら一緒にお話しない?」

 しばらくの沈黙のあと、震えた小さい声で伝える。
「ごめんね、心配かけて……。でも話しづらくて……チハルだけでも良いかな?」

 アツシは微笑みながらドア越しに「俺達は近くにはいるから、頼りたいときに頼れば良いよ。何があったか言わなくても良いけど、桜菜ちゃんの隣にはチハルがいるから、それだけは忘れないでね」

 皆に見送られながら、一人扉の中に踏み入れた。
 目の前には、笑顔一つないやつれた姿の桜菜が目に入る。そんな姿を見て、居ても立ってもいられずに、優しく抱きしめる。桜菜は最初、驚いた反応を見せたあと、涙を流しながら背中に手を回し抱き合った。

 落ち着くと、震えている手をギュッと握りしめながら話しを聞く。
 桜菜は入学時から学校に馴染めずにいたが、帰りにはチハルと会えるから気にしていなかった。だが、最近バンドの人気に火が付いて、クラスで話題になることが増えたとき、メンバーと一緒に居る桜菜を見つけて、その瞬間を写真に納めてクラスのグールプに貼られてしまい、嫉妬と憎悪で標的になってしまた。それでも最初は笑顔で耐えていたが、エスカレートしていき怖くて部屋から出られなくなってしまったと震えながら告げた。

 皆が人気になればなるほど、辛くなる一方で頼れなかったと謝られる。
 最後に「ずっと辛くて、消えたかった。……怖かったよ」と涙を流しながら、すがるように手を強く握った。

 ――何も言えなく言葉が詰まった。
 彼女も、音楽も、決して手離せない大事な宝。どれだけ頭を巡らせても、言葉で彼女の思いに答えることは出来ない。

「少し待っていて」

 そう告げて立ち上がり、扉の外に置いたベースを部屋に持ち込んだ。

『チハルのベース好きなんだよね。心が安心するっていうか、まるでチハルに包まれているみたいに感じる』

 ベースを始めた頃、口癖のように桜菜はいつも愛おしそうに話していた。その言葉を胸に刻みながら彼女の隣で奏でる。

 桜菜はベースの音を聞いて、嬉しそうに肩へ寄りかかると微笑んで、心から安心したのか、次第に目が閉じていき眠りついた。

 この日をきっかけに、桜菜の大好きなベースを毎日奏でている。
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