Secret Happiness Kiss/シークレットハピネスキス
 少しずつ元気を取り戻し、3月になる頃には自分から外に出て頑張りたいと話してくれた。その日から少しの距離を毎日二人で歩いている。次第に体力は戻りつつ距離も伸びた頃。バンドのライブ準備や新曲作成で桜菜の家に向かうことが出来なくなってしまった。

 電話をかけて事情を伝えると「チハルのおかげで元気になったし、少しの距離を一人で歩いてみようかなぁ」と言われて最初は反対したが、堅い意思は変わらず、帰宅したら連絡を送ると言うことで承諾をした。

 だが、30分が経過したが連絡が返ってこない。
 メールを送信してから練習に戻ったが身が入らず。アツシはその姿を見て、電話をするように進めた。急いで電話を掛けると、スマホから聞こえた声は桜菜ではなかった。

「こちら○○消防署の救急隊です。この携帯の桜菜さんを救急搬送中なのですが、ご家族のご友人ですか?」

「……え? 何があったんですか!? ねぇ! ねぇ! 桜菜は大丈夫なんですか!!」
「落ち着いてください。桜菜さんの治療のために、いくつか教えていただきたいことがあります」

 救急隊は、アレルギーや持病、かかりつけの病院、普段飲んでいる薬について聞かれた。知っている限りの情報を伝えると、最後に搬送先の病院を教えてもらい、すぐに桜菜のご両親にも電話をする。

 伝え終えてからスタジオを走って出ようとすると、アツシに腕を力強く握られて止められた。

「おい離せよ! 急がないと……」

「走っても時間の無駄だ! マサトにタクシーを呼ぶように頼んでいるから、乗っていくぞ。青ざめた顔で、焦りが見えたから呼んだけど、来るまでに何があったか聞かせろ」

 アツシは険しい顔を崩さずに話しを聞くと、二人で先に病院に向かうことになった。
「○○病院までお願いします」
「アツシ何もかもありがとう」
「今は桜菜のことだけ考えていればいいよ。他は全部俺がやるから」

 病院に着いて急いで受付に駆け込んだ。僕達は待合室まで案内されて向かう。

 青ざめた顔で桜菜の母親が近づく「チハル君! 来てくれありがとう。桜菜は散歩をしている最中、車にひかれて今手術なの! 私もまだよく分からなくて……」

「僕の……僕のせっ」頭が真っ白で言葉にしようとしたとき、アツシは強く腕を引っ張り、待合室を出た。

「何するんだよ」
「お前、今何言おうとした?」
「桜菜は僕のせいで事故に遭ったんだ! 僕が止めていたら事故に遭うことはなかったんだよ……」
「チハルが原因じゃない、悪いのは運転手だよ。散歩のことは、車の中でメールで送っているだろ? 誰も攻めていないのに、そんな言葉を言うべきではない。今は近くで桜菜のことを必死に祈ることだけ考えれば良い」

 待機室に戻り桜菜の母親に再度挨拶をして一緒に願いながら待つ。

 しばらく時間が経って、ユキトもマサトも到着をし皆で無事を祈る。待機室のドアが開き、出て来たのは医師だった。

 医師の周りに駆け込み結果を聞く。
「腹部に刺さった異物の除去手術は無事成功しました。懸念していた脳へのダメージも画像を見る限り異常はありません。意識が戻り次第、経過を見ながらリハビリを進めていきましょう。また元の生活に戻れますので安心してください」

 安心して息を吐くと、体にまとわりついた重たい空気が一気に抜けた。

 医者に感謝を伝えて、ベッドで寝ている桜菜を見て安心する。夜も遅いため、メンバーは帰ってもらい、僕と桜菜の両親は見守ることにした。

 一日経過してもまだ目は覚めない。それから何日経っても意識は戻らず、日が経つにつれ焦りと不安が増していく。事故から10日が過ぎた頃、桜菜の両親から「一緒に話しを聞いて欲しい」と言われて、担当医の元へ向かった。

 医師からは、目が覚めないのは事故の酷いショックが原因と判断している、と告げられた。脳自体には異常が見られない為、今は本人が目を覚ますのを待つしかないと話された。

 ずっとバンド活動や学校を休むことは出来ないので、大事な物が欠けた、日常に戻っていく。時間があるときは必ず病院に行き、最長でも一週間に一回は必ず桜菜の顔を見に行く生活を繰り返している。
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