Secret Happiness Kiss/シークレットハピネスキス
 ***【アツシ視点】

 ◇◇◇(鈴華と出会う日の10時頃)

 合宿が続き、自分なりの課題につまずいた。松村さんがいる部屋の扉をノックして、気分転換に外に出ることを伝える。明日の昼までに帰る事を条件に許可を貰い、メンバーがいる食堂に足を運ぶ。

「皆。明日の昼まで、少し外で遊んでくるわ」

 チハルはうらやましそうに、目を輝かせて「僕も行きたい!」と告げる。

「良いけど。浮気になっちゃうよ?」
「ゲー。なんで複数と関係持つかな。今日は誰ちゃんなの。……ハァー」
「みさきちゃんだよ」

 ユキトは呆れる表情で近づく「もうすぐデビューするんだから、ファンの子に手を出すのは辞めてよね」

 手のひらを上に向けて、両手を広げ「はーい」と適当に返事をする。ユキトは怒っていたが、マサトがなだめてくれて、自分の車に乗ると合宿を出た。

 ◇◇◇(家まで直帰。鈴華が家にいて驚いた後、食後に話しを始める)

 鈴華のここ1ヶ月の出来事を聞いている最中、我慢が出来なくなり頭を撫でながら伝える。

「俺達はきっかけになったかも知れない。でも、選択して前を歩いたのは、全部鈴華の力だよ。よく頑張ったね」

 鈴華は綺麗な涙を流したあと、沢山楽しい話しを語り合った。
 気が付けば、お互いに珈琲がなくなるまで時間が経っている事に気が付く。もっと二人きりで話したい、側に居たいと自分では感じることが少ない思いを胸に閉まっている時、鈴華は立ち上がった。

 自分でも抑えることが出来ない程、行動に意識がなかった。腕を引っ張ってキスをしてしまった。唇をゆっくりと離して見つめると、うっとりした瞳に目を奪われる。出会ってから鈴華の事を見ると、時々気持ちが抑えられなくなるほど心が高鳴る。最初の出会いを反省して、これまで皆と同じように接していたのに……。

 鈴華は笑顔に変わり「他の子にはしちゃダメだよ。本気にしちゃうし良くないよ」と言われた。心に刺さるように痛く、言葉が一瞬出なかった。でもすぐに表情に気が付かれて心配そうに見つめられる。悲しませたくないと思い、笑顔を作りごまかした。

 玄関まで鈴華を見送り、先程まで賑やかさが嘘のように静かになった。
「ハァー……何やってんだ、俺」
 本来の目的である演奏の練習を、防音室の部屋で朝まで引きならして、軽く睡眠をして起き上がる。

 何か飲み物がないか、そう思い冷蔵庫を開ける。中には麦茶とお皿が目に入る。お皿を出すと、美味しそうな朝食にラップが付けてあり、その上に紙が置いてあた。文字を読むと『朝食です。良かったら食べてください。鈴華』と書いてある。朝から笑みがこぼれて、美味しい朝食を食べた。

 まだ薄暗い空の中、車に乗る。運転する前に、昨日のキスを鮮明に思い出す。
『他の子にはしちゃダメだよ。本気にしちゃうし良くないよ』その言葉を思い出し、本気で好きなのに相手にされていないことが、悲しく胸にのしかかる。

 気持ちを切り替えて、合宿まで車を走らせた。
 車から降りて向かうと、玄関の外にマサトがいた。不思議に思い聞いてみる。

「どうしたの? こんな所で立ち尽くして」
「外の空気を吸いたかっただけだよ」
「そっか」

 マサトの横を通り過ぎると呼び止められる。振り返るとマサトは真剣な顔で告げる。

「一人で全部背負う必要ないんじゃない?」
「何のこと?」

 沈黙が流れると優しい瞳で話し始めた。

「始めて気付いたのは、松村さんに出会った時だった。どうやって俺達の事を知ったか聞いたことがあったんだ。そしたら辞める少し前に、事務所に若い高校生が尋ねてきて、ライブを聞いて判断して欲しいと頭を下げながら伝える熱心な若者がいたって言われた。一つだけじゃなくて、複数の事務所に行って頭を下げている事を最近になって知ったよ」

「人違いだろ」
「俺も驚いたから調べたよ。女性と遊びに行くって話している日に、本当は頭を下げているなんて、何かの間違いじゃないか……でも松村さんの言うとおりだった」

「……」
「気になることがあるんだ。なんでリーダを決めるとき、アツシじゃなかったんだ。アツシが一番Secret Happinessを大事にしているのに」

「……舐められるのが嫌いなだけだよ。特に仲間をね。この役割は俺だけで良い。だから絶対に他の人には話すなよ。もし話したら一生許さねぇ」
「アツシ……」

 振り返らずに進んで部屋に荷物を置きに行った。

 少ししてから、メンバー全員で練習を始める。マサトとはいつも通りに接したが、まだ心配そうなツラで見つめていた。家で課題をこなして成果が実り、練習は成功に終わる。

 今回の合宿では、優秀な指導である。アユミさんとヒビナさんは参加をしていない。だからこそ、皆の見本にならなければならい。誰より先に上達をして導くんだ。
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