後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「マリオン、温かかった。ちゃんと、生きて戻ってきてくれた」
 指先に残る温もりを逃さないように、握りしめて呟くレイラの瞳は涙に揺らいでいた。
「はい。マリオン様もフィリアス様も、生きて戻られました」
 そっとハンカチでその雫を吸い取ると、ユリアはレイラを優しく抱きしめた。

「レイラ様も、よく頑張られました。ユリアは、レイラ様の事を誇らしく思います」
「……ユリア」
 優しい声に、レイラの頬を再び涙が伝う。

 衝動的に城を飛び出して、こんなところまで来てしまった。
 自身で探しに行く事など出来ないと分かっていても、少しでも近くにいたかった。
 そんな短絡的な行動を諫めても、結局は共に居てくれたユリアの存在は、レイラにとって救いだった。

 いや、今だけの話ではない。
 誰も知る人がいない他国へ花嫁という名の人質へ出された時も、ユリアだけが自分から手をあげて付いてきてくれたのだ。

 あの日からいつだって、ユリアはレイラの側にいた。
 
「ユリア、ありがとう。私、幸せだわ」
 ポツリと腕の中で呟かれたことばに、ユリアは微笑んだ。
「何をおっしゃっているのですか。これから、もっともっと幸せになるに決まっているではないですか」
 もう一度顔をあげさせて涙をぬぐうと、ユリアはレイラの手を引いて歩きだした。

「さぁ、レイラ様も湯浴みをして、綺麗にいたしましょう。久しぶりの恋人との再会なのですから、とびきり美しい姿をお見せしなければ」
「……うん!」
 柔らかな手に促され、レイラは嬉しそうに頷いた。




 その日、最前線の砦は旗印であった王子を取り戻し、喜びに沸いた。

 少しやつれた感はあるものの、自身の足で堂々とまっすぐに立ち、急の不在を詫び戦線を維持してくれたことを労う姿に、集まった人々は歓声をあげる。
 その隣には美しい金の巻き毛を結い上げて控え目な微笑みを浮かべるレイラの姿があった。

 見慣れたエプロン姿ではなく美しく着飾ったレイラ(医師助手の少女)に、人々は驚きの声をあげたけれど、下働きの間から広がった恋物語は貴族たちの耳まで届いていて、そういう事だったのかと納得したような顔を見合わせて頷きあった。

 そうして、尊い身でありながら、愛する人のために平民に身をやつし、こんなところまで来てしまったレイラの愛と献身の素晴らしさを称えたのだった。

 
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