後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 薄暗い部屋の中、少年が赤い顔でベッドに横になっていた。

 暖炉は火が消えてしばらくたつようで、部屋の空気は冷えきっている。
 誰もいない部屋はひどく静かで、少年のつく荒い息の音だけが響いていた。

(あれは、子供の頃の俺か? ……そうか、夢を見ているんだな)

 その様子を、マリオンはどこか遠くから眺めていた。
 母親が亡くなって、最初の冬に、マリオンはひどい風邪をひいた。

 保護者をなくした子供を気にかける大人は周りにいなかった。
 メイドはいたけれど、通り一遍の世話をするだけで、孤独に震えて弱みを見せまいと隠した少年の不調に気がつく事はなく、結果的に悪化させて生死をさ迷う事になったのだ。

『お母さん、苦しいよ。側にいてよ……』

 熱にうなされながら幼い少年が、小さな手を宙に伸ばす。
 目はしっかりと閉じられていて、意識はないのだろう。だけど、その眦からはポロポロと涙がこぼれていた。

『お母さん……。か……さ……』
 静かな部屋に、母を探す哀れな少年の声だけが響く。

(呼んだって無駄だ。母は死んだんだ。誰も、助けてなんてくれない)
 その声を聞きながら、マリオンは苦い思いを噛みしめる。

 頭が割れる様に痛くて、体が燃えるように熱くて、咳が止まらなくて怖かった。
 だけど、一番怖かったのは、孤独だった。
 部屋の外にはたくさんの人がいるはずなのに、誰もそばにはいてくれない。
 このまま、誰にも気がつかれずに、闇に溶けていきそうで。幼いマリオンはとても怖かった。

(平気だ。人は孤独では死なない。このときだって、大丈夫だった)
 うなされながら涙をこぼしている幼い自分に言い聞かすようにつぶやいた時、ふいにひやりとした何かが触れるのを感じて、マリオンの意識はどこかへと吸い込まれていった。




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