後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「あら? 目が覚めた?」
「……レイラ」
 目を開けた途端に飛び込んできた菫色に、マリオンはかすれる声でその名前を呼んだ。

「だいぶ熱は下がってきたみたいだけど、気分はどう?」
 穏やかな声と共に、額に置かれていた手が離れていく。
 マリオンは、とっさにその手を捕まえると、頬を擦り寄せた。

「どうしたの?」
 マリオンの珍しく甘えるようなしぐさに、レイラが少し驚いたように目を丸くする。そんなレイラに気づく余裕もなく、マリオンはかすれた声で訴えた。

「……昔の夢を見たんだ。誰もいなくて……、独りぼっちで寂しかった」
 どこか幼気な目でつぶやくマリオンに、レイラは柔らかにほほ笑んだ。

「そう……。大丈夫。私は側にいるわ。いつだって、マリオンと一緒よ」
 自由な方の手で額や首筋に浮かぶ汗を優しくぬぐいながらささやくレイラを、マリオンはじっと見つめた。

 あの時と同じように薄暗い部屋は、暖炉に火が灯り、温かく保たれていた。

「そうだな。レイラがいるから……もう怖くない」
 ジワリと滲むように笑顔になったマリオンの額に、レイラが口づけを落とす。

「さあ。まだ朝は遠いわ。もうひと眠りしたら薬が効いて、元気になってるはずよ」
「……レイ……ラ……は?」
 安心した途端に襲ってきた眠気にうつらうつらとしながらも、マリオンは握った手にもう一度キュッと力を込めた。

「約束したでしょう? ここにいるわ」
 優しい声に安心したように、マリオンの手から力が抜けていく。

 静寂は、もう怖くなかった。

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