後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「すまない。脅かすつもりじゃなかった」

 固まるレイラに、少し困ったような声が再び降ってくる。
 レイラは、強張る体を叱咤して恐る恐る俯いていた顔を上げた。

 そこには、白いシャツに細身のズボン、膝下までのロングブーツを履いた背の高い男性が立っていた。
 少し赤味がかった金髪は短く整えられ、服の上からでも分かる程鍛えられた体は、語られずとも男性の職業を物語っていた。

 おそらく、これに制服である上着を着て帯剣すれば立派な騎士様の出来上がり、だろう。

(やばい……人に、見つかったのかしら?私……)

 黙ったまま、見つめ合うこと数秒。

「あの、私の忘れ物を保管してくださったそうで……」
 緊張感に耐え切れず、先に口を開いたのはレイラだった。

 手に持っていた編み棒を、そっとカゴに置いてさりげなく立ち上がる。

 見下ろされる圧迫感を軽減しようとするささやかな防衛反応だったのだが、残念ながらあまり意味はなかったようだ。
 立ち上がってなお、見上げるほどの身長差に愕然とする。

(え?大きすぎない?私、だいぶ成長したと思ってたけど……。………国民性?国民性の違いよね!私が小さすぎるわけではないはず!)
 表情が変わらないまま、内心は大パニックだ。

 それでも、どうにか自分を納得させる方向に意識転換を試みる。
 その際、母国より付いてきてくれたユリアが、自分より10センチほど大きいという現実は、棚の上に全力で放り投げた。

「いや。こちらこそ、勝手なことをしてすまなかった。薬草に詳しい友人に聞いたら、適切な処理をしないと薬効がなくなるものもあると言われたから、そのまま預けたんだ」

 凛々しい眉尻が少し下がり、申し訳なさを伝えてくる。
 その表情に、レイラは知らぬ間に入っていた肩の力をそっと抜いた。
 こっちを見つめる濃い青の瞳に映る光は優しげで、悪人には到底見えない。

 今でこそ友好的に接してくれる人も増えてきたが、『弱い立場』であるレイラ達を、悪意を持って見つめる人は意外と多かった。
 望まずに培った経験と本能が、目の前の大柄な騎士を「善人」と告げている。

 過去、自分の本能に助けられた経験のあるレイラとしては、それに素直に従うことにした。

「いいえ。丁寧に処理していただいて、助かりました。これでお願いされていたお薬が作れます」

 手渡された籠の中には、種類ごとに分けられた薬草がきちんと納められていた。
 パッと見ただけでも、それぞれに適した処理が施されているのがわかる。

 日射しに弱いものは、影でじっくり。
 急速乾燥の必要なものは、強い光と多分火の力を使って。

 薬草の葉先まで損なうことなく丁寧に扱われたそれを見て、レイラの脳裏に薬師の手ほどきをしてくれたババ様の言葉が浮かんだ。

『薬草は大地の神様の恵みだよ。根の一筋、葉の一枚とて、おろそかにしてはならん。感謝の気持ちで、生まれたての赤子を扱うように優しく丁寧に。そうすれば、薬はより良い効果を生んでくれるんじゃ』

 地元の人たちから森の魔女様と慕われていたババ様の皺くちゃの手を思い出しながら、知らずレイラは微笑みを浮かべそっと慈しむ様に薬草を撫でた。




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