後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「ありがとうございます。本当になんとお礼を言っていいのか……」
 薬草の入った籠を手に、丁寧に頭を下げた少女の柔らかな笑顔に見とれていたマリオンは、ハッと我に返った。

 薬草に向けられた慈しむ様な優しい笑顔は、まるで物語の中の聖女のように神々しくすら見え、マリオンはすっかり魂を抜かれてしまい呆然となっていた。
 しかし、薬草の相談をした相手に処理をした見返りに言付けをされていたのを、レイラの言葉でようやく思い出したのだ。

「いや。問題がないのなら良かった。それで、不躾な質問で申し訳ないのだが、あなたが最近話題になっている『境の森の魔女』様で間違い無いだろうか?」
 突然の言葉に、少女の華奢な肩がピクリと震える。

「アァ、別に咎めようとかそういう意図はないのだ。ただ、薬草の処理を頼んだ知人の薬師に伝言を頼まれて、だな……」
 ようやく和らいだ少女の警戒心が戻ってしまいそうな気配に、マリオンは慌てて言葉をつないだ。

 その焦った様子に何かを感じ取ったのか、少女は逃げることはなく、上目遣いでこちらを窺いながらもコクリと頷く。
 まるで小動物のように少し潤んだ瞳でこちらを見つめる大きな菫色の瞳に、マリオンの心臓がどくりと大きな音をたてた。

「………あの……?」
 固まってしまったマリオンを少女が訝しげに首を傾げ声をかける。

「あ……あぁ、すまない。それで、どうもその中に希少な薬草があった様で、出来れば分けて貰いたいとのことなんだが」
 再びはっと我に返り、どうにか伝言を伝えれば、少女が少し迷った様にカゴを差し出す。

「全てこの森で採れたものですから、元々私のものではありません」
 ションボリと肩を落とし差し出されたカゴを、マリオンは慌てて押し返した。

「いや。この森は王宮にいる者たちに開かれた場所だし、コレは貴女が見つけたもので、必要があるから苦労して採取したのだろう?貴女のものだ」
 けして、咎めているわけでも取り上げようとしているわけでもないと言葉を重ねれば、少女の顔が少し緩む。

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