後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「……あのまま、ババ様の元で薬師として生きていくんだと思ってた……」
 少し遠い目で呟かれたレイラの言葉はひどく寂しげに響いて、隣で聞いていたマリオンの胸を刺す。

 今までに感じたことのない胸の痛みに、マリオンはわずかに眉をひそめた。
 その痛みの正体は分からないけれど、自分の隣にいるのに「ひとりぼっち」に見えるレイラにたまらない気持ちになった。

 だから。

「俺はレイラがここにいてくれて嬉しい」
 すぐ側にある手をとり、こぼれ落ちた言葉は何を思ってのことではなかった。
 ただ、「ひとりぼっち」ではないのだと知って欲しい、その一心だった。

 自分より少し体温の低い小さな手は、握り込めばあまりにも儚く、そのまま消えてしまうのではないかと、不安に駆られる。
 だから、マリオンは脳裏に浮かぶままに言葉を重ねた。

「だから、どこにも行かないで欲しい」

 マリオンの口をついて出た願いは、郷愁に駆られていたレイラの胸の隙間にコロリと転がり落ちる。
 真っ直ぐに自分を見つめる濃青の瞳に、隙間を埋めた何かがポゥッと熱を持った気がした。

「どこにも……って……。行かないわよ!?行く場所なんて、どこにもないもの!」
 感じたことのない熱に混乱したレイラは、叫ぶ様にそういうとマリオンの手を振り払って立ち上がった。

「薬草、それで今回の分は全部だから!お届け、お願いします!」
 そういって踵を返し、まるで野ウサギの様に素早く駆け去っていくレイラの耳は真っ赤に染まっている。

「あ……」
 その鮮やかな赤に魅入られて、呼び止める言葉は出てこなかった。
 遠ざかっていく華奢な後ろ姿を呆然と見送ったマリオンは、その姿が緑の中に紛れて見えなくなった頃、ようやくノロノロと動き出した。

 残された薬草のたくさん入ったカゴが、初めて会った時の事を思い出させる。
 だけど、あの時と違うのは、カゴの底に丁寧に包まれた傷薬の包みが、マリオンの為に入っている事だ。

「レイラ……真っ赤だった」
 ポツリと呟き、先程の自分の言葉と行動を思い起こせば、自然と頬が熱くなるのを感じた。
 手を握り、見つめたまま「ここにいて欲しい」と乞うた自分の行動はまるで………。

「うわぁぁぁ〜〜!俺、何やってんだ?!」
 誰もいない昼下がりの森に、騎士の叫びがこだました。

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