後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 どうも、数年前にあった近隣国との小競り合いの結果、送り込まれた側室らしいが、後宮の端にある部屋に住み、閉じこもったまま出てこない変わり者だそうで、最近では、誰もその姿を見たことがないという。
 そんな変わり者の側室が国から連れてきた唯一の侍女で、とても優秀だが気さくで優しい女性らしい。

「見つけた」と喜んだのもつかの間。
 どうもマリオンに聞いたのとは名前も容姿も印象も異なる。

 女性は「化ける」ものだと知ってはいるが、さりげなく聞き出した侍女の姿とマリオンが語る「レイラ」ではあまりにも違いすぎた。

 これで同一人物だというなら、それこそ姿形を変える魔法でも使っているのでは、と言いたくなるほどだった。
 まぁ、現実には魔法など存在しないのだから、別人と考えるのが普通だ。

 それでは、その侍女が誰かを仲介して薬を渡しているのかとも思ったが、どうにも、その姿を捉えることが出来ない。

「外部」も疑ったが、むしろ「外部」の商人と取引していて、薬と交換に様々な物を手に入れている事実を見つけてしまった。

 すわ、不正か?!と思えば交換しているのは小麦に肉に衣類………。
 別の意味で不審なラインナップに、女友達(・・・)とは別ルートで真っ当に調査してみると、件の側室に割り振られた予算が不正横領されており、彼女にはドレスどころかパン一切れすら支給されていない事が判明した。

 どうも最初の一年は辛うじて食料の類は渡されていたようだが、それもメイドが直にキッチンの方へ直談判して分けてもらっていたようだ。ありえない。しかし、少しずつその頻度は減り、ついには顔を見せなくなった。

 それに比例するように、商人とのやりとりや「境の森の魔女」の噂が立ち出したようだ。

 つまり、パン1つ手に入れるのにも嫌味を言われる現状に見切りをつけた「誰か」が、逞しくも自分で自給自足の目処をつけてしまったという事だ。

 この辺りで、もうフィリアスは嫌な予感がたっぷりだったのだ。

 なんで、友人の「初恋の君」を見つける前に、後宮の不正を暴かなきゃいけないのか………。
 更にその不正を見つける際に、おまけのように知ってしまった側室の名前にフィリアスは心が折れそうになる。

 しかし、伝え聞いた例の側室が後宮に入った時の容姿と「初恋の君」との差異にかすかな希望を持ち、不正捜査を担った女性官司にどうにかつなぎを取り「今の」様子を教えてもらったのだ。

 金の波打つ豊かな髪に菫色の瞳。真っ白な肌は滑らかで、質素な衣類に身を包んだ姿はまるで物語の聖女のような美しさだったそうだ。

 そして、不正の調査のため連日徹夜をしていて顔色の悪かった自分を気遣い、「胃腸が弱って疲労も溜まっているようよ」と薬草を自ら手渡してくださり、荒れた肌にもいいからと素晴らしい化粧水まで譲ってくれたそう。

 感動したように目を潤ませ語る官司の様子は、完全に信者のそれだった。

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