後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「本人だけでなく、メイドの心配までするのか?」
 少しからかうような口調にマリオンはムッとしたように眉をひそめた。

「異国の地で、互いに支え合って4年の月日を過ごしたなら、それはもう友や家族のようなものだろう。そのメイドが罰せられれば、きっと彼女も傷つく」
 言い切ったマリオンにフィリアスが目を丸くした時、思わぬ方向から追撃が来る。

「もしも俺のせいでお前が傷つけば、俺は一生後悔するだろう。同じ事だ」
 真っ直ぐに告げられた言葉に、フィリアスは思わず顔を手で覆うと俯いた。

「なんで……お前はそういう事を恥ずかしげも無く……」
 言った本人ではなく、言われた方が恥ずかしい理不尽さに、どうにか文句を言ってやりたいのだが、耳の熱さから絶対顔が赤くなっているのがわかるため、顔を上げることが出来ない。

「俺はまた変なことを言ったか?」
 フィリアスの様子に、自覚のないマリオンは不思議そうに首をかしげるばかりだ。

「もうヤダ。天然怖い……」
 言葉を飾る事を知らない、愚直なほど真っ直ぐな青年は、こうしてたまに爆弾を落としては友人たちを身悶えさせるのが常だった。

 尤も、本気でそう思っているとわかる真っ直ぐな言葉は、驚くほどの威力で以て相手の心に届く。
 そうして増えていく友人(味方)に、(こういうのもカリスマって言うのかね)とフィリアスは呆れと共に思うのだ。

 ちなみに、とっくの昔にほだされ済みのフィリアスとアギトックであった。

「ああ、もう!俺の事はいいから、今は彼女の事だろ!サッサと対策練らないと別の誰かに攫われちゃうぞ!!」
 やけ気味に叫ぶフィリアスにマリオンが重々しく頷いた。

「それなんだが………」





 その日、唐突に訪れた先触れに、あいも変わらず数種類の薬草の入った鍋をかき回すレイラはキョトンと首を傾げた。
 邪魔になるからと背後で無造作に1つに縛った髪がフワリとその動きに合わせて揺れる。

「第5王子様がいらっしゃる?なんで?」
「………お会いになれば分かります。それより、時間がないので急いで湯浴みしてください。薬草の香りが全身に染み付いてます」

 少し遠い目をしたユリアに追い立てられるように湯浴みをし、用意されていた手持ちの中では一番上等なドレスを身にまとう。

  待ち構えていたユリアに髪を梳かれ、複雑に編み込まれた後、髪飾りは持ってないので折良く庭に咲いていた生花を飾れば、即席ながら令嬢っぽい姿になった。

「時間がない」と鬼気迫る様子のユリアに、詳細の説明を求める隙はなく、ようやく満足気に頷いたユリアに応接間へと誘導された時には、すでに来訪を告げるノックが響きわたった。

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