後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 それでも、言い訳させてもらうなら。

 あの森の中で、ひと時を語り合う。

 本当にそれだけが全てで、それ以上があるなんて思ってもみなかったのだ。
 自分はこの国の国王の側妃であると、実感はなくとも自覚はしていたのだから。
 他の人に眼を奪われるなどあってはいけない事なのだと、潔癖な少女の心は、雁字搦めに自己を縛り付けていた。

 それに、詳しい素性は知らずとも、城内にある森を自由に散策できる騎士ならば、その未来は明るいものであるはずと、世間知らずのレイラでも簡単に想像はできた。
 レイラの存在は、その未来を壊すものでしかないだろう。

 だから、素性を隠した。
 だから、名前以上の話を聞こうとしなかった。
 だから、自分の気持ちを見ない振りをした。

 知らなければ、泡沫の上に立つようなこの時間を、少しでも長く続けていけるような気がしていたのだ。

 無くしたくない。

 無自覚だった自分の心が、見ないようにしていたマリオンの背景を知る事で、浮き彫りにされた瞬間だった。

 レイラの頬を、涙が伝っていく。

「なぜ、泣くんだ?」
「あまりにも自分が愚かで……」
 問いかけに、レイラは、溢れる涙を拭くこともなく、ただ、マリオンを見つめた。

「貴方が好きです」

 囁くような声だった。
 それは息吹一つ聞こえぬような静かな部屋の中で、どこか凛とした響きを持ち放たれる。

「だけど、コレは持ってはいけない心です。生まれてはいけない想いです。だって………。だって、私は………」
 そのまま、言葉にならずただハラハラと涙を溢すレイラをマリオンはじっと見つめていた。

 そうして、フワリと笑みを浮かべたのだ。
 心の底から嬉しそうに、瞳に愛しさを滲ませて。




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