後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「なんで、笑うの?」
 あまりにも予想外のマリオンの表情に、レイラは、呆然とつぶやいた。
 それに、マリオンは笑みを浮かべたまま答える。

「君があまりにも愛おしくて」
 力強く真っ直ぐに響く言葉は、マリオンの気持ち、そのままだった。

「レイラが、俺が何者かを気づいてないことはすぐに分かったよ。そして、何かを隠そうとしていることも。それに………、一線を踏み越えないようにしていることも」

 そうして続けられた言葉に、レイラは息を飲んだ。悟られていたことも、それを許容されていたことも驚愕だった。

 驚いたように自分を見つめるレイラに、マリオンは少し人の悪い笑みを浮かべた。
「こう見えて、人の感情には敏感なんだ。そうでなければ、生きられない場所で過ごしてきたからね。だから、最初の頃は、俺の事を知らない、知ろうとしないレイラの存在を都合よく思ってた。とても気楽で、息がしやすかったから」

 人の感情に敏感だからと言って、器用に立ち回れるかは、また別の問題だった。
 むしろ、感情を読み取れるからこそ、不用意な自分の言葉で誰かを傷つけてしまうのが怖い。そんな少年だったマリオンは、黙り込んでしまう事の方が多かった。

 幼い頃から騎士を目指したのは、王位を狙う気はないというアピールとともに、言葉少なくとも剣の腕さえあれば認めてもらいやすい世界だと、当時の剣の師匠に教えてもらったからだ。

 そうして飛び込んだ騎士の世界は、言葉の海を泳ぐようなあの場所よりは、思惑通り、幾分息がしやすかった。

 だけど、他の見習い騎士達と同じように泥に塗れて過ごしてなお、『王子』と言う肩書はどこまでもマリオンに付き纏った。
 たわいのない会話の筈が、いつの間にか薄暗い闇を滲ませ、実力で勝ち取ったはずの勝利や地位ですらヒソヒソと揶揄される。

 もちろん、そんな事ばかりではない。
 ちゃんと心に寄り添ってくれる存在も居ると知っていたけれど、それでも些細な積み重ねは心を疲労させていった。

 そんな中、ただ「騎士様」とマリオンを呼び、真っ直ぐにこちらを見つめてくるレイラの存在は、驚きとともに深い安らぎを与えてくれた。

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