後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 そして。

 いつの間にか、たどり着いたのは森の中を流れる細いせせらぎの側だった。
 初めて会った日から、幾度となくマリオンと二人で時を過ごした場所だ。

 ぼんやりとしているうちに、足は慣れた道をたどっていたのだろう。
 昼と夜という違いこそあれ、見慣れた場所のそこかしこに染み付いた二人の時間が、鮮やかによみがえる。

 初めての出会い。
 置いてあった薬草籠を見つけた時の驚き。
 初めて交わした言葉。
 レイラに教わりながらぎこちなく薬草を摘む姿。
 持ってきたサンドウィッチを二人で食べたこと。
 訓練で付いた傷を「放っておいてはダメ」と叱りながら治療したときの気まずそうな顔。

「街で見かけて・・・似合いそうだったから」と照れくさそうに髪飾りを渡された時は、驚いたけど嬉しかった。

 ゆっくりと重ねていった時間は、確かにそこにあって、レイラの混乱していた心を少しずつ落ち着かせてくれる。

(そうね。突然、あんなキラキラした格好で王子様なんて肩書つけて現れるから、びっくりしたけど……。
 マリオンはマリオンだわ。
 口下手であまり表情は変わらないけど、まじめで、いつでもまっすぐに私を見て、些細な話でもちゃんと聞いてくれる人。ちょっと目つきは悪いけど、たまに笑うと片方に笑窪が出来てなんだかかわいいの)

 つらつらと考えながら、水辺に座り込みせせらぎを指でかき回す。

(隣にいても、そのままの私でいられるの。どこかの貴族の娘でも、王様の何番目かの奥さんでもない、ただのレイラで・・・・。そうね・・・私、この先一緒にいるなら彼がいいわ・・・・)

「・・・・だって、私はマリオンを愛しているんだもの」
「・・・おれもだ。レイラ、君を愛してる」
 思わずこぼれ落ちた言葉に、返事が返ってくる。

 驚いて振り向いたその先には、いつもの姿をしたマリオンがうれしそうな笑顔で立っていた。

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