後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 訳の分からないまま養父母より引き離され、お貴族様のルールを詰め込まれた。そして、ろくな説明もなく隣国へと嫁がされたと思えば、人気のない後宮の端っこへと追いやられて放置される。

 幼かったレイラが意固地になるには十分な扱いで、そっちがその気なら絶対に頼るものかとソッポを向いた。

 本当なら、幼い子供らしく泣きわめいて駄々をこねるか、同郷の姫にすり寄り情けを乞えば簡単な事だとわかっていた。
 しかし、少女の潔癖さと突如現れて勝手な理屈を押し付けた父親への反発から、どうしてもその道を選べなかったのだ。

 そうして無我夢中で生きてきて、気が付けば、後に引けなくなっていた。

 このまま、後宮の片隅でひっそりと朽ちていく未来を思えば、まだ成人したばかりの身では恐ろしく心細かった。
 何より、ただ一人ついてきてくれたユリアを、そんな運命に巻き込んでしまったことが、とても怖かった。

 そんな中、突如動き出した時間は、恐ろしかったけれど、ありがたくもあったのだ。

 明日の食事を心配しなくてもいい。
 丈の短くなったドレスをどうにかごまかして着る苦労も、遠くから聞こえる華やかなパーティーの音楽に惨めな思いをすることも無い。

 隠そうと頑張ってくれていたけれど、たった一人の味方でいてくれるユリアが、他の侍女たちに必要以上に侮られることも無くなるだろう。

 やっと人並みの生活になる。
「レイラ様が森で獣を狩る生活から抜け出せる」と喜ぶユリアに、何と言っていいのか困った記憶も新しい。

「結構楽しかったと思うのに」と唇を尖らせれば、「それとこれとは別です」ときっぱりと言われてしまった。




「やっと人並み・・・・・王様の側妃が人並みの範囲に入るのかは微妙だけど、まあ、そういうつもりだったの。
 なのに次は『王子様の妃』っていわれて、びっくりというかパニックになっちゃったんだよね。
 だって、私の中でマリオンはただの騎士だったんだもん。
 形だけとはいえ王様の奥さんだった自分が、他の人のお嫁さんになるっていうのにもびっくりだったし。・・・・この恋は、ひっそりと墓場まで持っていく気だったし・・・・ね」

「・・・・・レイラ」
 顔は、まっすぐに前を向けたまま淡く微笑みレイラに、マリオンは言葉を見つけられず、今日何度目かの愛しい人の名前を呼んだ。

「でもね。もういいの。気づけたし、わかったから、大丈夫」
 まるで自分に言い聞かすようにそう言うと、レイラは前を向いていた顔をマリオンに向け、にっこりと花が咲くように笑った。



「私を、マリオンの、お嫁さんにしてください!」


< 49 / 124 >

この作品をシェア

pagetop