後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~

16. その背中を見送った後は…

 華やかな隊列の先頭に立ち、マリオンは北の国境へと旅立っていった。

 王の名代としての旗印を掲げ美しい白馬に乗って去っていくマリオンは、まさしく王子様(・・・)で、とってもまぶしかった。

 表立っては、いまだ王の側妃という立場であるレイラは、見送りの参列の片隅にひっそりと紛れそれを見送った。

 忘れ去られた側妃という今までの立場から言えば、それすらも破格の扱いであったが、実は、中央付近に引っ張り出されそうになるのをどうにか逃れてのその立ち位置だった。




 あの夜。

 胸を張ってプロポーズの返事というか、逆プロポーズ紛いをしたレイラは、次の日から、本当に慌ただしくて倒れるかと思うような時間を過ごした。

 先ず最初に行われたのは、王との謁見だった。
 とはいっても非公式であり、プライベートルームでの顔合わせだったが。

 表向きには、後宮の不正の犠牲者になった側妃を慰めるという建前で、その実情は、マリオンとの婚姻をいかにスムーズに行うかの話し合いだった。
 なんと、その場には王妃様までいて、驚きのあまりレイラはひっくり返るかと思った。

 なんと、後宮でろくな後ろ盾のないレイラの為に動いて下さるそうで、詳しく聞けばマリオンの後見のようなこともしているそうである。

「マリオンの母親とは婚姻前からの友達だったのよ。彼女が亡くなった後は母親のつもりでいたのに、この子ったら遠慮ばかりしてちっとも頼ってくれなくて。今回、初めて相談してくれてとっても嬉しいの」

 笑顔の王妃様は、それはそれは麗しかった。

「よければ、レイラちゃんもお母様って呼んでくれると嬉しいわ」
 とても二十歳越えた息子に孫までいるとは思えない麗しさであったが、包み込むような包容力はさすが2児の母であった。

「うちは男の子ばかりだったから、女の子のお仕度がとっても楽しみで。今までの分も、ドレスをたくさん作りましょうね!」
 ぐいぐいと迫ってくる王妃を、隣にいた王があきれたように窘める。

「そんなに、一気に迫ったら気の毒だろう。少し落ち着け。しかし、こんなに華奢ななりで、よくもたくましく生き抜いたものだな。
 裏の森でウサギなどを狩っていたと聞いたが、それほど獲物がいるのか?」
 窘めつつも興味津々で質問してくる王の様子に、数年前に謁見の間で見た威厳はなく、非常に親しみやすい笑顔だった。

「父上も王妃様もそれくらいにしてください。話が脱線してます」
 あきれ顔で口を挟むマリオンに「なんでシェルは父上で私は王妃様なの?! そこは母上と呼ぶべきでしょう? シェルばかりずるいわ!」と王妃から抗議の声があがり、場は一気にカオス化した。

 そんな場をどうにか潜り抜け、めでたくマリオンとレイラの今後の計画は決められた。

 おおよそは、あの日フィリアスが語った通り。

 《将来的に王子の妃とする予定の幼いレイラを庇護するための隠匿生活であり、白い結婚であった》
 との噂を流しつつ、マリオンにはそれなりの貴族位を与えるために実績を作って貰う。
 その間に、レイラは上位貴族としての、そして未来の王子妃としての再教育が行われる事になる。

 継承権を放棄したとはいえ腐っても第五王子。それなりのしがらみも体裁もあるのだ。
 決して、面倒だと言ってはいけない。
(こっそり思うくらいは許されるかも………)
 なんて、上位貴族向けの礼儀作法をビシバシと叩き込まれつつレイラはそっとため息をついた。




(どうか、無事に戻ってきますように)

 危険などほぼ無いとみんな口にしたけれど、不穏な空気があるからこその増兵である。
 万が一があるかもしれないと思えば、レイラの胸は痛んだ。
 そっと軍列に紛れて見えなくなるマリオンの背中を見つめながら、心から祈る。

 だが、その願いが天に届くことはなかったのである。



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