後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 ありったけの薬を手渡して「何か詳しいことが分かったら教えてね」と頼み込んだ後、レイラは、誰かほかに詳しい話を知らないかと急いで部屋へと戻った。

 とはいっても、ほとんど引きこもっていたレイラに聞ける相手などいないため、結局探すのは頼りになる侍女のユリアなのだが。

(見回りの兵士って言ってたし、仮にもマリオンは王子なんだから、きっと普通の巡回に交ざってはいないはず)

 自分に言い聞かせながらも、湧き起こってくる嫌な予感に徐々に足は速くなる。
 最後にはほとんど駆け込むようにして部屋に飛び込んできたレイラに、ちょうどお茶を準備をしようとしていたユリアは目を丸くした。

「どうしたんですか?レイラ様。そんなに慌てて・・・・」
 はしたないと小言を言おうとしたユリアは、主人の顔色が悪い事に気づき、急いて側に駆け寄る。
「何があったんですか?顔色が悪いです」
 息を切らすレイラを優しくソファーへと誘導すると、とりあえず水を手渡す。

「さっき、マイクさんに、北の砦のほうで戦闘があったって聞いたの。怪我人もたくさん出たって・・・・だから、傷薬や痛み止めをあるだけ欲しいって言われたんだけど・・・・」
 手渡された水を一息に飲んだ後、レイラはすがるようにユリアに訴えた。

「それは・・・・・」
 突然のことに、ユリアも一瞬言葉を失う。
 けれど、出来る侍女はすぐに自分を取り戻し、不安そうに自分を見上げるレイラを勇気づけるように微笑んだ。

「落ち着いて下さい。北の砦から流れてきた話をマイクさんが聞いたのなら、事が起こってから3日は経っているはずですし、マリオン様に何かあったとすれば早馬でそれよりも速く一報が届いているはずです。そして、マリオン様に何かあったとしたら、レイラ様にお話が来ないはずはないでしょう」

 ゆっくりと目を見て話すユリアに、レイラの不安も少しずつ落ち着いてきた。
「・・・・・・そう・・・よ・・ね。何かあったのならお城から、教えてもらえる・・・・よね」

 自分に言い聞かすように繰り返すレイラの顔色が戻ってきたことを確認して、ユリアはそばを離れると手早くお茶を淹れた。

「とはいえ、詳しいことが分からないとレイラ様も不安でしょうから、ちょっと、お話が聞けないか行ってきますね」
 温かい紅茶とお菓子をレイラの前にセッティングすると、ユリアはそう言って、足早に部屋を出ていく。

 余りにも素早い行動に声をかける間もなく、レイラは、あっけにとられて閉まった扉をしばらく見つめていた。
 そうして、残されたティーセットへと手を伸ばす。
 一口、口に含めばレイラ好みの濃さで淹れられたそれは鎮静効果のあるハーブティーで・・・・・。

「うちのユリアが有能すぎるわ」
 穏やかな香りを楽しみながら、レイラはぽつりと誰ともなくつぶやいた。
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