後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「レイラ様はどうされたんでしょう。こんな事はよくあるのですか?」
 不安そうな顔を向けられ、ユリアは困ったように首を傾げた。

「ごくたまに昔の記憶を思い出そうとされるときに似たような状況はありましたけれど、ここまでは・・・・」
 ついには目を閉じてしまったレイラだがその口元が何かをつぶやいている様子で眠ってしまったわけではないのが分かる。
 指先も何かをたどるようにかすかに動いていた。

「まるで瞑想をしているようですね。それか何かの神託を受ける巫女のような・・・・・」
 その様子に、マイクが小さく囁いた。
 なぜか大声を出すのがはばかられたのだ。
 今、レイラの邪魔をするべきではないと、なぜかそう感じた。

 どれほどの時間、息を殺してレイラを見守っていただろう。
 それは途方もなく長い時間のようにも、一瞬の刹那のようにも感じた。

 唐突にパチリと目を開けたレイラは、息を吹き返したかのように大きく深呼吸をすると、真剣な顔で宣言した。
「ババ様に手紙を書くわ。誰か、お使いをしてくれる人を探してもらえるかしら」

「・・・・・・ババ様、ですか?」
「それはいったい?」
 困惑気味に首をかしげる二人に、レイラがなんで伝わらないのかと不思議そうに首を傾げた。

「森のババ様よ。私に薬のことを教えてくれたお師匠様でもあるの。ババ様なら、きっとこの状況を助けてくれると思う。”最後の願い”を使うわ」
 まるで何よりも大切なことを告げるかのようにキッパリと言い切ると、レイラは席を立った。

「便箋とインクを用意しなくちゃ。紙は何でもいいの。ただし、インクはダメ。決まりがあるのよ。材料を取りに森に行くわ。多分、昼過ぎには戻るから、大鍋にお湯を用意してくれると嬉しい。それから、出来るだけ早く王妃様に会えるように手配をお願い。じゃあ、行ってくるわね」

 まるで嵐のように早口で言い切ると、レイラは止める間もなくバルコニーから外へと飛び出して行ってしまった。それでもちゃんと採取籠とマントを掴んでいったのはさすがというべきだろうか。

 最も、残された方は、訳が分からず立ち尽くすのみだったが・・・・・。

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