後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「森のババ様って、分りますか?」
「レイラ様は生まれたばかりの時、森の別荘の番人一家に預けられて、そこでお育ちになられたと聞いたことがあります。その一家の祖母が薬師でその方に師事していた、と。
 なので、おそらく生国アルライドにある森へと、手紙を届けてほしいのだと思いますが・・・・・」
 この国に来たばかりの頃に聞いた記憶をたどりながら、ユリアも自信なさそうに答える。

 何しろ、明日のことを考えるのに精いっぱいの時期だったため、思い出話をゆっくり聞いている時間も少なかったのだ。
 老婆の話も、なぜそんなに薬草に詳しいのかと尋ねた時に作業の片手間に話してくれた知識だった。

「アルライドですか。今回問題を起こしたイルジルとは反対方向にある国ですから、影響は少ないでしょうし、それほど苦労なく国境は越えれると思いますが・・・・・遠いですね」

 国を一つ越えた先にある小国で、馬を乗り継いで走らせたとしても1か月はかかるだろう。
 それも、何の問題もなくたどり着けたとしての話であり、実際は、山賊や獣の対策など心配は尽きない。

 そんな長距離の強行軍を耐えられるのは、国の騎士くらいではないだろうか。

「それを含めての王妃様の面会かもしれませんね。とりあえず行ってきます。マイクさんはどうされますか?」
「・・・・・乗り掛かった舟ですし、今後どうなるかも気になります。できることがあるようなら、しばらくは定宿にいますのでご連絡ください」
 とっさに応えたのは、何を考えてのことではなかった。

 言ってしまってから、らしくない言葉に自分で驚いたほどだ。
 だけど、後悔は湧いてこない。
 そして、自分の商人としての勘が、きっと面白い事が起こるぞとささやいているのを感じて、マイクは自分の直感を信じることにした。

「いいのですか?」
「もちろんです」
 確認の言葉にも目を合わせてはっきりと頷く。

「わかりました。何かあれば頼らせていただきます」
 正直、手持ちのカードが少ない中、動いてくれる手駒は喉から手が出るほど欲しいところだ。
 それが、長年の付き合いのあるマイクならば、なおのこと。
 誰とも知れない少女の手を受け入れ、助けてくれた人物をユリアとて信頼していたのだから。

 無言のまま握手を交わすと、二人はそこで分かれ、それぞれに動き出した。


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