後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 ババの産まれた一族はね、代々薬師の家系だったのさ。
 ババのババ様・・・・、それよりうんと昔から、薬草と共に生きてきた。
 お前に教えた薬の知恵も、そうした先祖が積み上げてきた知識なんだよ。
 親から子へ、子から孫へ・・・・そうして知識と血をゆっくりと国中に広げ、さらには国境を越えて生きてきたのさ。

 お前ももしも困ったことがあったら、その街の薬師の店先を覗いてごらん。そこに秘密のしるしを見つけたら、その薬師は一族の流れを汲んでるから、きっとお前の助けになってくれるだろう。
 代わりにお前も困った仲間がいたら、労を惜しまず助けてあげるんだよ?

 それが、数少ない一族の掟の一つさ。

 それとは別に、特に濃い血のつながる者たちの間に昔からある伝統がある。
 それはね、通称”最後の願い”。

 独り立ちをする子供に親が贈る最後の贈り物さ。
 その願いを託されたら、どれほど大変な事でも親は叶えてやる義務がある。

 もちろん、死人を生き返らせろ、なんて無茶はできないけどね。
 それでも、自分のできる精一杯で努力しなけりゃいけない。

 それは、この世に我が子を産みだした親の最後の責任なのさ。

 お前を生んだ母親は、直接じゃないけれど私の血筋でね。
 正確にはババの叔母の孫娘に当たるのさ。
 幼いころに親を亡くして、叔母に預けられて私の元で育ったんだ。
 ……お前と同じだね。

 残念ながら薬師としての才能は無かったけれど、器量よしで歌が上手かったから、年頃になると歌で生きていくとここを出ていって、あんたの親父さんと出会ったのさ。

 お前はね。あの子の”最後の願い”で私の元に来たんだ。
 私が産んだ子ではなくても育てた子だから、ここを出ていくときに、今みたいに話をしたんだよ。

 産中からいろいろ問題があったから、お前を生んで無事ではいられないと分かっていたんだろう。
 一人残すお前をとても心配していたけれど、どうしてもお前をこの世に生み出してやりたかったと言っていたそうだよ。

 自分は十分幸せだったから、この子にも同じくらいの幸せをあげたいとね。
 泣くんじゃないよ。全て覚悟のうえでお前を生んだんだ。誇っておやり。

 そうして、もしも自分が死んだ後、旦那がこの子を受け入れられないようなら、私の所へ連れて行ってほしいと出入りの薬師に頼んでいたんだ。
 それが自分の”最後の願い”だとね。

 馬鹿な子だよ。
 これはそんなふうに遺言みたいに使うものじゃないってのにね。
 そんな事に使うくらいなら、直接ババに森から出て来いって言えばよかったんだよ……。

 ああ、話がそれたねぇ。
 年を取ると愚痴っぽくなっていけない。
 とにかく。そういうものが一族の伝統にあるって話だよ。

 お前と私の血は遠いけれど、お前の母もお前も私の元で育った私の娘さ。
 だからね。
 本当に何か困ったことがあったらババをお呼び。
 ババのできる全てで、お前の望みを叶えてやろう。

 だけどね。一つだけ約束しておくれ。

 お前の母親のような使い方はいけない。
 この”お願い”はね、親が子供に与える最後の甘やかしでもあるんだ。
 親より、ましてやこんな年寄りより先に黄泉の国にわたるなんて絶対にしちゃいけないよ?

 分かったかい?そう。いい子だね。
 愛しているよ、可愛いレイラ。



< 63 / 124 >

この作品をシェア

pagetop