後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「それにね。一族から離れて歌うことを選んだはずなのに、その夢をあきらめてまで愛した人のそばを選んだお母さんの為に、一度だけあの人の言う事を聞いてあげてもいいかなって、思ったんだよね」
 しかし、そんなしんみりした空気をぶち壊すようにレイラがあっけらかんと笑う。

「私がここにいるのは自分の命を懸けて産み出して、その後も心配して”最後の願い”を使って守ってくれたお母さんのおかげだから。お母さんはもういないから、代わりに最後の親孝行してみようかなって」

「そのために自分が家族から引き離されて、こんな不遇を託つことになったのにですか?」

「それだよ!もう少し気にかけてもらえるものかと思ったけど、送り出したらなしのつぶてなんだもん。さすがにびっくりしたよ」
 けらけらと笑うレイラの様子は、どこまでも明るい。

 そこに、露ほども父親に対する恨みのようなものは感じられなくて、ユリアは怒るよりも呆れてしまう。
 ある意味、レイラらしい、どこまでも前向きでカラッとした言葉だった。

「それに、ユリアが一緒にいてくれたしね。1人だったらさすがにめげて、さっさと森に帰ってたと思うわ」
「……それは、むしろ私がいなかった方が良かったのでは」

 ため息とともに、ユリアはかき混ぜていた鍋を火から遠ざけた。
 話している間にすっかり鍋の水分は飛んでねっとりとした緑の塊が出来上がっていたのだ。

「あ~~~、いい感じ。ありがとう、ユリア。代わるね」
 鍋を覗き込んだレイラが、先ほどからすり潰したり混ぜ合わせたりしていた乳鉢を手に場所を替わる。

「それに、ね。今は本当に感謝してるのよ?ここに送り出されたこと」
 まだ熱い鍋の中身を、少しずつすり潰した粉に混ぜ込みながら、レイラは笑った。

「最初は大変だったけど、森の中を自由に散策する日々は悪くなかったし………。
 お母さんの気持ちも……分かったから」

 ほんのりと頬を染めるレイラに何を思い出しているのか察して、ユリアも微笑む。

「そうですね………。悪いことばかりではありませんでしたね」

 部屋に、少ししんみりとした空気が流れる。
 居心地の良い沈黙の中、レイラがゆっくりとすり鉢の中身を掻き回す微かな音だけが響く。

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