後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「・・・・・・はいよ。ちょっと待ってくださいね」
 奥から少ししわがれた声が返ってきて、何かを引きずるような音とともに、ローブのフードを深くかぶった人物が出てくる。
 しわの深く刻まれた口元から下しか見えないため、男性か女性かはっきりしないけれど、どうやらかなりの年寄であることは間違いない。

「はいはい、お待たせ。何の御用かね?」
 ゆったりとした喋り方は先ほどの掠れた声と同じで、この人物が店の主人で間違いないだろう。
 近づく距離と共に強くなる薬草の香りに、レイラはただ黙ってその場に膝を突いた。

 そうして、胸の前で指を複雑に絡めて、いくつかの印を結んで見せる。
 最後に、手の平を上に差し上げ、頭を垂れた。

 唐突なレイラの行動に、ローブの人物は何も言うことなくジッと立ち尽くす。

「森の魔女の小鳥の娘が、ご挨拶申し上げます」
 しばしの沈黙の後、レイラが口を開いた。

 クスリと小さな笑い声がした。

「小鳥の娘・・・・・久しいね。お前が赤ん坊のころにこの手に抱いたことがあるよ。大きくなった」
 そうしてレイラの頭がふわりと撫でられる。

「歓迎するよ。小鳥の娘。もう、来ないかと思っていたけれど・・・・」
 くすくすと笑いながら、ローブの人物が差し伸べられたレイラの手を引いて立ち上がらせる。

 その力が思いもよらず強くて、顔をあげたレイラはさらにキョトンとした。
 かすかに覗いていた口元は確かにまだ深いしわを刻んでいるのに、ズレたローブから覗く目元は、ひどく若々しかったのだ。
 驚くレイラの顔に、その人は、いたずらが成功した子供みたいな顔をして笑った。
 その声も、先ほどとは違い滑らかに響く。

「突然だったから、下半分しか用意できなかった。普段ならこれで充分だしね」
 笑いながら、顎のあたりからべりべりと皮をはいでいく様子はちょっとしたホラーだ。
「サントスだ。一応、君の兄弟子に当たる・・・・かな。君が2つくらいまで一緒に暮らしてたんだよ、レイラ」
 フードを外したとたんに零れ落ちた見事な赤毛に、レイラの記憶が刺激される。

「・・・・・・シャー兄?」
 呼ばれてサントスの目が驚いたように見開かれる。
「そうだよ!レイラは小さくてちゃんと名前を呼べなくて、いつもそう呼んでた。すごいな、あんなに小さかったのに覚えているのか!」
 感激したように抱きしめられて、レイラも思わず声をあげてその背に腕を回した。

< 71 / 124 >

この作品をシェア

pagetop