後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「覚えてるわ。眠るとき、よく歌を歌ってくれてた。薬草を探しに行くのについて行って、疲れたと泣く私を薬草籠に放り込んで担いで帰ってくれたの」
「そう。寝ぼけたレイラが一緒に入ってた薬草を握りつぶして、もう一度集め直しに行く羽目になったっけ」
 笑いながら思い出話に花が咲く。
 そうして、ようやく離れると、サントスは改めてレイラを見つめた。

「本当に大きくなった。綺麗になったね」
 しみじみと言われて、レイラの頬がほんのりと赤く染まる。
「そんなことより、どうしてここにいるの?修行の旅に出たと聞いたわ。東国の珍しい技術を教えてもらいに行ったって」

 面倒見のいい優しいお兄ちゃんがいなくなって、レイラは長い間しょんぼりしていたのだ。
 落ち込むレイラに「サントスは頑張ってるんだから、レイラも応援してあげないと」と教えてくれたのは義母だったか義父だったか・・・。

「行ってたとも。そして帰ってきたら、かわいがってた末の妹弟子が嫁いだと聞いて、驚いてこの国に来たんだよ。そしたら、店をたたんで引退しようとしてる一族の者がいたから、丁度いいから後釜に座ったんだ。そのうちレイラが訪ねてくるかな……と思ってたら、こんなに時間が経ってしまったよ!」

 少しおどけたように笑って見せるサントスに息を飲んだ。
「行かなくてもいいんだよ」と心配する家族の元を離れたからには、頼ることはできないと意地になっていた。

 そんな自分を心配してくれる人が、こんな近くにいてくれたことに驚いたのだ。
 そして子供のような意地を張って、そんな人たちに心配をかけ続けてきた事実に、レイラはようやく気づく事ができた。

「シャー兄、私なんて親不孝者だったのかしら」
 呆然としたように呟くレイラに、サントスは慈愛に満ちたまなざしでそっとその柔らかい髪を撫でた。

「いいんだよ。年長者が下の者を守るのは当然のことなんだから。それが家族なら、なおさらだ。まあ、少し寂しい想いはしてるだろうけどね」
 ポロリと一粒、レイラの頬を流れた雫をサントスがそっと袖口で吸い取った。

「さ、意地っ張りな末の妹弟子が訪ねてきたんだ。大切な用事があるんだろう?」
 そっとその背を押して、店の奥へと導きながら、サントスはいたずらっぽく笑った。
「例えば、きな臭い場所に行ってしまった恋人のこと・・・とかね?」
「兄さん!なんでそれ!!」

 驚きに思わず声をあげるレイラに、サントスは楽しそうに声をあげて笑った。
「なんでって、街の噂になってるよ?愛しい異国のお姫様を迎えるために、手柄を立てようと勇敢に旅立った王子様の話」
「何それ!そんな噂が出てるの!?」

「レイラ様?大きな声が聞こえましたが、大丈夫ですか?」
 さらなる追撃にレイラが悲鳴を上げると、店の外から心配そうなユリアの声がかかった。

「おや、連れがいたんだね。呼んでおいで。お茶を飲みながら話そう」
 くすくすと笑いながら店の奥に引っ込んでいくサントスを恨めし気に睨むと、レイラはユリアを呼ぶために店の入り口へと足を向けた。




 こうして思わぬ既知との再会を果たしたレイラは、無事、ババ様への手紙を託すことに成功したのである。


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