後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「マリオンが行方不明との報告が来ました」

 果たして、その不安は、勧められるままにソファーに座ったとたんに告げられた王妃からの言葉で、的中したことを知る。

「行方…不明……」
 クラリと目まいがした。
「ああ、だから座るように勧められたんだ」とどこか冷静な頭の片隅で考え、レイラは、ハッと持ち直す。
 気絶している場合ではない。

「どうしてそのようなことになったのですか?」
 青白い顔でそれでも毅然と顔をあげたレイラに、観察するような目を向けていた王妃は、満足そうにかすかに微笑んだ。

 か弱く気絶するか、持ち直すか。
 それによって今後の対応が変わっていたことをレイラは知らない。
 尤もそれが良い事か悪い事かは分からないけれど、少なくとも王妃のお眼鏡には適ったようだ。

「隣国の侵略行為が激しくなってきて、何度か戦闘になったようです。
 マリオンもそれらに参戦していたのですが、予期せぬ夜襲を受け、混戦になりました。
 辛うじて勝ちを得る事ができたようですが、その中で行方が分からなくなったようです。
 夜明け直前の薄闇の中、敵味方の区別も難しかったと聞きました。
 最後に目撃されたのが川の方だったとの事なので、誤って流されたのではないかとのことです」

「・・・・・・・川に・・・・」

 淡々と告げられる言葉をどうにか頭の中で整理する。
 ともすれば湧き上がってくる恐怖と混乱で叫び出してしまいそうな中、レイラは、辺境の地図を思い出していた。

 領地の中、国境付近を流れる川は・・・・・・。

「隣国のほうへと流れていたはず・・・・ですね」
「確かに、隣国へと流れてはいますが、一度かなり深い山を越えていくためすぐに人里へと入るわけではありません。
 ただ、かなり深い森の中を行くため、捜索は難航しているようです。
 状況的にもそちらにばかり人を割くわけにもいかないのでしょう。残念ですが、今のところ痕跡は発見されていません」

 語られる言葉は、どこにも希望を差し込む隙が無く、レイラはただ声も無く強く唇を噛み締めた。
 そうしなければ、意味もない言葉を喚き散らしてしまいそうだった。

「私にできることは・・・・」
「今のところ、何もありません。このことを知らせるかも、正直、意見は分かれたのです。
 内定しているとはいえ、まだあなたとマリオンのことは正式にお披露目されていませんから」

 唇を噛みこぶしを握り締めてこみ上げる激情をやり過ごしたレイラは、絞り出すような声で問うた。
 しかし、それにもあっさりと「否」の言葉が返ってくる。

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