後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「そこ!邪魔よ!!」
あと少し。
その声が響くのが、あと1秒でも遅ければ、そうしていたと思う。
よどんだ空気を切り裂くような凛とした声に振り返った先には、両手いっぱいにタオルを抱えた少女が立っていた。
長い髪を一つにまとめ白い布で覆い、同じく白いエプロンを身に着けた少女は、確か、同じ馬車でこの前線に来たはずだ。
与えられたテントに向かう際に別れたきりだが、見覚えがあった。
後続で送り込まれた医師の助手ということで、残念ながら話す機会はなかったが、柔らかな金色の髪と菫色の瞳の場違いなほど美しい少女だったので、記憶に残っていたのだ。
「きみは・・・」
「聞こえなかったの?邪魔だからどいてちょうだい。吐きそうなら、離れたところでお願いね。健康な人に手をかけられるほど、人手に余裕はないの!」
かけようとした言葉を遮られ、肩で押しのけるようにして、少女は中へと入っていった。
「薬や包帯はあっちに運んでください。お湯はこちらに。ユリア、空気が悪すぎるわ。天幕の布をあげて風を通してちょうだい」
そうして、後にぞろぞろと続く人々に、てきぱきと指示を飛ばしていく。
その場にいる誰よりも年若い少女の指示に、誰もが疑問を持つ様子もなく従っていた。
「な・・・な・・・・・・」
天幕の布がたくし上げられ、風が通り抜けた。
よどんだ空気と共に、気分を悪くする匂いも薄れていく。
あれほど重く立ち込めていたはずの死の気配も・・・・・・・。
先ほどとは別の意味で呆然と立ち尽くす。
「大丈夫です。包帯を変えましょう。すぐにお医者様も来ます。・・・・助かりますよ」
地面に膝を突き、先ほどからピクリとも動かなかった人影に向かい、少女が優しく声をかける。
そっと泥と血に汚れた顔をタオルで清める姿は慈愛に満ちていた。
「やれやれ、若いもんは動きが早くてついていけんわい」
ポンと、肩を叩かれて顔を横に向ければ、今回の総まとめでもある老医師がそこに立っていた。
「君は、医学を学んでいた生徒だったかな?志願してきたと聞いたが、やる気のある人間は大歓迎じゃ。実践は大変じゃが、身になることは多い。頑張りなさい」
場にそぐわないのんびりとした声だが、その瞳は、強い使命を帯びてきらめいていた。
「老師様!そんなところで立ち止まってないで、早く患者さんを診て下さい!私では、縫合まではできないのですから!」
息を飲んだ青年が何か言う前に、遠くから、少女の声が響き渡る。
「はいはい。レイラちゃんはせっかちじゃのう。焦らんでも、人はそんな簡単には死なんよ」
肩を竦めながらも老医師は、もう一度青年の肩をポンと叩くと、中へと入っていった。
「そこのあなたも!動けるなら手伝って!猫の手だって借りたいくらいなんだから!」
既に患者へと向き直ってしまった自分よりも一回り小さいはずの背中を「大きいな…」と見送っていたら、こちらにまで声が飛んできた。
「は・・・はいぃっっ!!」
思わず大きな声で返事をして、少女の方へと走りだす。
気づけば、気持ち悪さも恐れも、どこかに消えてしまっていた。
あと少し。
その声が響くのが、あと1秒でも遅ければ、そうしていたと思う。
よどんだ空気を切り裂くような凛とした声に振り返った先には、両手いっぱいにタオルを抱えた少女が立っていた。
長い髪を一つにまとめ白い布で覆い、同じく白いエプロンを身に着けた少女は、確か、同じ馬車でこの前線に来たはずだ。
与えられたテントに向かう際に別れたきりだが、見覚えがあった。
後続で送り込まれた医師の助手ということで、残念ながら話す機会はなかったが、柔らかな金色の髪と菫色の瞳の場違いなほど美しい少女だったので、記憶に残っていたのだ。
「きみは・・・」
「聞こえなかったの?邪魔だからどいてちょうだい。吐きそうなら、離れたところでお願いね。健康な人に手をかけられるほど、人手に余裕はないの!」
かけようとした言葉を遮られ、肩で押しのけるようにして、少女は中へと入っていった。
「薬や包帯はあっちに運んでください。お湯はこちらに。ユリア、空気が悪すぎるわ。天幕の布をあげて風を通してちょうだい」
そうして、後にぞろぞろと続く人々に、てきぱきと指示を飛ばしていく。
その場にいる誰よりも年若い少女の指示に、誰もが疑問を持つ様子もなく従っていた。
「な・・・な・・・・・・」
天幕の布がたくし上げられ、風が通り抜けた。
よどんだ空気と共に、気分を悪くする匂いも薄れていく。
あれほど重く立ち込めていたはずの死の気配も・・・・・・・。
先ほどとは別の意味で呆然と立ち尽くす。
「大丈夫です。包帯を変えましょう。すぐにお医者様も来ます。・・・・助かりますよ」
地面に膝を突き、先ほどからピクリとも動かなかった人影に向かい、少女が優しく声をかける。
そっと泥と血に汚れた顔をタオルで清める姿は慈愛に満ちていた。
「やれやれ、若いもんは動きが早くてついていけんわい」
ポンと、肩を叩かれて顔を横に向ければ、今回の総まとめでもある老医師がそこに立っていた。
「君は、医学を学んでいた生徒だったかな?志願してきたと聞いたが、やる気のある人間は大歓迎じゃ。実践は大変じゃが、身になることは多い。頑張りなさい」
場にそぐわないのんびりとした声だが、その瞳は、強い使命を帯びてきらめいていた。
「老師様!そんなところで立ち止まってないで、早く患者さんを診て下さい!私では、縫合まではできないのですから!」
息を飲んだ青年が何か言う前に、遠くから、少女の声が響き渡る。
「はいはい。レイラちゃんはせっかちじゃのう。焦らんでも、人はそんな簡単には死なんよ」
肩を竦めながらも老医師は、もう一度青年の肩をポンと叩くと、中へと入っていった。
「そこのあなたも!動けるなら手伝って!猫の手だって借りたいくらいなんだから!」
既に患者へと向き直ってしまった自分よりも一回り小さいはずの背中を「大きいな…」と見送っていたら、こちらにまで声が飛んできた。
「は・・・はいぃっっ!!」
思わず大きな声で返事をして、少女の方へと走りだす。
気づけば、気持ち悪さも恐れも、どこかに消えてしまっていた。