後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 一度、北の砦に立ち寄った後、レイラはすぐに前線へと移動になった。

 砦にある医療室には、移動に耐える程度の傷を受けた身分の高い患者だけがいた。
 もしくは、欠損があり兵士としては戦えなくなった者たちだ。

 最も、ここにいるのは大半が、まだ移動に人手を割く事ができる時期に受傷した幸運な者達である。

 最近の激戦地と化した前線では、一般の兵士をわざわざ運ぶ余裕もなく、薬や必要な物資や人手も不足している中、辛うじて確保された天幕の中に怪我人が転がされている状況らしい。

 話を聞いた一部の医療従事者は、すぐさま前線へと物資を運ぶ部隊と共に移動することを選んだのだった。

 レイラが助手として付くことになった老医師もその一人である。
 当然、レイラもそれに従った。むしろ、望むところである。

 レイラの選択に、ユリアは、もう何も言わなかった。
 ここまで来たら、反対しても無意味だと身に染みていた・・・・というより、あきらめ、開き直ったのだ。

 そうして、前線にたどり着くと同時に、レイラは指定された寝床に荷物を放り込むと、負傷兵がいる場所へと足を向けた。
 そこは、想像通りの修羅場だった。

 残り少ない薬は重症者へと優先され、大半の負傷者は必要最低限の対応で、ただ地面に転がりうめいている。
 多すぎる負傷者の対応でろくに休めていないのか、歩き回る看護者の顔色も悪い。

(これはダメね)
 ため息とともに、自分の直属の上司である老医師を探すために踵を返した。

 実は伯爵家の血を引く彼は、嫡男にもかかわらず幼いころより医師を目指した”変わり者”である。
 無事に医師の資格を得た後は、技術は現場にいなきゃ身につかないよね~と各地を転々としていた。

 変わり者だが腕は立つ彼に、生家の伯爵家は呆れつつも協力的で、家族の関係は良好。
「医学を極めるのが楽しすぎて婚期のがした」と、甥姪をかわいがっているそうだ。

 ちなみに伯爵家は弟が跡を継ぎ、立派に切り盛りしている。
 自由な兄をあきれながらも支える裏で、兄の開発した新薬の販売権を獲得して領地の特産物のひとつとしたチャッカリさんだ。

 つまり、持ちつ持たれつ。

 もろもろの事情ゆえに、未だ伯爵家に籍を残す老医師は、おそらくこの場で一番位が高い。
 つまり、発言権がある。
 レイラはやってきた老医師を捕まえるなり、把握した現状を訴え、今まで頑張っていた医師や看護者たちに休むように指示してもらい、引継ぎついでにチャッカリ現場の権限を奪いとった。

 途端に、医師同士の引継ぎは老医師にまかせ、レイラの暴走が始まった。
 持ち込んだ物資から必要なものを有無を言わさず引っ張り出し、大量のお湯を沸かすように指示。
 自らタオルを引っ担ぎ、人手不足ゆえ不衛生極まりない一般負傷兵たちの環境改善に乗り出したのだ。

 そして、天幕入り口で呆然としていた、学校出たての新人医師へと遭遇したのだった。




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