後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
(ああ…………………つかれた………)

 一度止まってしまえば、ずっと感じていた倦怠感がひどくなった気がした。
 もう、立ち上がれる気がしない。

(もう………いいかな……………。だって、こんなに頑張ったんだ………。もう、動けないし……なんのために頑張っているのかも…………わからないし…………)

 ゆっくりと体の力を抜けば、そのまま地面に沈み込んでいくような気がした。

(ああ、つかれた……な…………)

 ほう、と大きく息をついて、それでも無意識に前を向いていた顔を横に向ける。
 目を閉じようとした、その時、目に飛び込んできたのは柔らかな金と深い菫色。
 上着の袖から覗いたそれは、金糸の混ざった組み紐で菫色の石を編み込んだブレスレットだった。

(これは………なんだ……………?)

 けして高価なものには見えない手作りのそれが、いつからそこにあったのか……………。

『マリオン様』

 ふいに耳元に澄んだ声が響き、まるで天啓を受けたかのように、白に染まりかけていた思考が戻ってくる。
(そうだ。私の名前だ)

 何度も自分を呼んだその声。
 それは、誰よりも大切な人の声だったはずだ。

『マリオン様が無事に帰ってきますように………』
 別れの日に泣きそうな笑顔で、そういって手作りのブレスレットをつけてくれたのは………。

「…………レイ……ラ…………」

 無音の空間にかすれた声が響いた。

『マリオン様!』

 その声に応えるように、今度ははっきりと声が聞こえた。
 途端に、霞がかかったようだった記憶がはっきりと戻ってくる。

(そうだ。なんで忘れていたんだ。私はマリオン。ジルパイン王国の第5王子。これをくれたのは……)

 マリオンは、力の入らない手足を無理やりに動かすと体を起こした。
 膝に手をつき、どうにか立ち上がる。

「レイラ。私は約束したんだ……きみの元に戻ると………。レイラ!」

 その瞬間。

 白い霧が晴れ、辺り一面に光が溢れた。




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