後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
「……………ここは」
目を開けると、木を組んだだけのむき出しの天井が見えた。
体を起こそうとした途端、ひどい痛みが走り、うめき声が漏れる。
「マリオン!目が覚めたのか!!」
歯を食いしばって痛みに耐えていると、よく知った声が耳に飛び込んできた。
のろのろと首を横に向ければ、フィリアスが扉の方から駆け寄ってくるのが見える。
「フィリ……」
名を呼ぼうとして、乾ききったのどが耐えられず咳き込む。
咳の反動で体が動いたことでさらに激痛が襲い、あまりの痛みに涙がにじんだ。
「マリオン、大丈夫か!」
慌てたようにフィリアスが、体を横向きにして背中をさすった。
どうにか痛みの波をやり過ごしたマリオンの唇に、湿った布が触れた。
「体を起こしてやりたいが、辛いだろう?これを吸えるか?」
滴るほどに濡れた布を唇に押し込まれ、マリオンはその布を噛む。
にじむ水がカラカラに乾いた口の中をわずかに潤した。
本能の赴くままに吸いつけば、どうにか吸い取れた水がのどへと流れていく。
慎重に飲み込んで、ほうっと息をついた。
ひりつく痛みを訴えていた喉が潤っていく。
布が取り上げられ、再び水気を帯びて戻ってきた。
ただの水のはずのそれが、今の乾ききったマリオンにはまるで甘露のように感じる。
夢中で吸いつくマリオンの様子を見ながら、フィリアスは、数度同じことを繰り返したあと、手を止めた。
「ここまでにしよう。いきなりだと体がびっくりして吐いてしまうから。また、あの激痛を味わいたくないだろう?」
渇きは癒えたとはいえ、まだ満足していなかったマリオンは、恨めし気にフィリアスを見つめるが、無情にも首を横に振られてしまった。
「もう少しして、吐き気が無かったら、な」
痛みに悶絶したときににじんだマリオンの額の脂汗を丁寧なしぐさでぬぐいながら、言い聞かすようにフィリアスは語りかけた。
「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、今はもう少し眠れ。ここは安全だから」
乱れた掛布を直されて、宥めるように髪を撫でられる。
まるで聞き分けの無い幼子にするようなしぐさだが、不思議と反抗する気になれなかったのは、フィリアスの隈の浮いた目元に浮かぶ、安堵の表情のせいだろう。
ふいに脳裏に浮かんだのは、闇の中の襲撃と喧騒。
そして、その最中に落ちた水の冷たさ。
傷のせいでうまく浮かぶ事ができずに、早い流れに揉まれるように流されていった。
濁流に沈む寸前に捉えた声は、フィリアスのものだった気がする。
「わか・・・・った」
襲ってくる強い眠気に、マリオンは抗うことなく瞳を閉じた。
聞きたいことは確かにたくさんあるけれど、体は休息を欲していた。
ここはフィリアスに従った方がいい。
安全だとフィリアスが言い切るのだから、そうなのだろう。
だけど、これだけは、とどうにか伝えたい言葉を一言だけ残して、マリオンは意識を失った。
「あり………が……と。フィリ…………」
「馬鹿野郎……。それはオレのセリフだって」
小さな声を聞き取ったフィリアスは、複雑な表情でつぶやいた。
「本当に馬鹿だろ、お前。守られるはずの王族が、自ら盾になってどうする」
あの時言えなかった悪態をつきながら、青白い顔を眺める。
少し、表情が和らいで感じるのは、一度でも目を覚ましてくれた安堵からだろうか。
粗末な木のベッドに寝かされたマリオンの体は、厚い包帯でぐるぐる巻きになっていた。
「本当に、意識が戻ってよかった・・・・・」
その姿を見つめるフィリアスの脳裏に、あの夜の出来事がまざまざと蘇った。
目を開けると、木を組んだだけのむき出しの天井が見えた。
体を起こそうとした途端、ひどい痛みが走り、うめき声が漏れる。
「マリオン!目が覚めたのか!!」
歯を食いしばって痛みに耐えていると、よく知った声が耳に飛び込んできた。
のろのろと首を横に向ければ、フィリアスが扉の方から駆け寄ってくるのが見える。
「フィリ……」
名を呼ぼうとして、乾ききったのどが耐えられず咳き込む。
咳の反動で体が動いたことでさらに激痛が襲い、あまりの痛みに涙がにじんだ。
「マリオン、大丈夫か!」
慌てたようにフィリアスが、体を横向きにして背中をさすった。
どうにか痛みの波をやり過ごしたマリオンの唇に、湿った布が触れた。
「体を起こしてやりたいが、辛いだろう?これを吸えるか?」
滴るほどに濡れた布を唇に押し込まれ、マリオンはその布を噛む。
にじむ水がカラカラに乾いた口の中をわずかに潤した。
本能の赴くままに吸いつけば、どうにか吸い取れた水がのどへと流れていく。
慎重に飲み込んで、ほうっと息をついた。
ひりつく痛みを訴えていた喉が潤っていく。
布が取り上げられ、再び水気を帯びて戻ってきた。
ただの水のはずのそれが、今の乾ききったマリオンにはまるで甘露のように感じる。
夢中で吸いつくマリオンの様子を見ながら、フィリアスは、数度同じことを繰り返したあと、手を止めた。
「ここまでにしよう。いきなりだと体がびっくりして吐いてしまうから。また、あの激痛を味わいたくないだろう?」
渇きは癒えたとはいえ、まだ満足していなかったマリオンは、恨めし気にフィリアスを見つめるが、無情にも首を横に振られてしまった。
「もう少しして、吐き気が無かったら、な」
痛みに悶絶したときににじんだマリオンの額の脂汗を丁寧なしぐさでぬぐいながら、言い聞かすようにフィリアスは語りかけた。
「聞きたいことはたくさんあるだろうけど、今はもう少し眠れ。ここは安全だから」
乱れた掛布を直されて、宥めるように髪を撫でられる。
まるで聞き分けの無い幼子にするようなしぐさだが、不思議と反抗する気になれなかったのは、フィリアスの隈の浮いた目元に浮かぶ、安堵の表情のせいだろう。
ふいに脳裏に浮かんだのは、闇の中の襲撃と喧騒。
そして、その最中に落ちた水の冷たさ。
傷のせいでうまく浮かぶ事ができずに、早い流れに揉まれるように流されていった。
濁流に沈む寸前に捉えた声は、フィリアスのものだった気がする。
「わか・・・・った」
襲ってくる強い眠気に、マリオンは抗うことなく瞳を閉じた。
聞きたいことは確かにたくさんあるけれど、体は休息を欲していた。
ここはフィリアスに従った方がいい。
安全だとフィリアスが言い切るのだから、そうなのだろう。
だけど、これだけは、とどうにか伝えたい言葉を一言だけ残して、マリオンは意識を失った。
「あり………が……と。フィリ…………」
「馬鹿野郎……。それはオレのセリフだって」
小さな声を聞き取ったフィリアスは、複雑な表情でつぶやいた。
「本当に馬鹿だろ、お前。守られるはずの王族が、自ら盾になってどうする」
あの時言えなかった悪態をつきながら、青白い顔を眺める。
少し、表情が和らいで感じるのは、一度でも目を覚ましてくれた安堵からだろうか。
粗末な木のベッドに寝かされたマリオンの体は、厚い包帯でぐるぐる巻きになっていた。
「本当に、意識が戻ってよかった・・・・・」
その姿を見つめるフィリアスの脳裏に、あの夜の出来事がまざまざと蘇った。