後宮のすみっこには天才薬師がいるらしい ~いないもの扱いだった人質の私、趣味の調薬で国を救って正体がバレました~
 男は、少し照れたように頭をかきながら、部屋へと入ってきた。
「いやぁ、行くには行ったんだけど、いざ採取しようとしたら必要な道具を忘れてたことに気づいてね。慌てて戻ってきたんだよ」
「ダカラ確認スル、言ったノニ」
 さらには護衛役のベックもその後をついてくる。

「まぁ、まぁ。おかげでこうして目が覚めたマリオン君に会えたことだし、結果オーライって事で」
 誰が聞いてもいささか無理のある話の納め方に、とりあえず突っ込む人はいなかった。

 付き合って数日のフィリアスですら、ディアンとはこういう適当な人物であることは分かっていたし、(意識がある状態では)初対面のマリオンには、それよりも気になる点がありすぎたので……。

「この度は救いの手を差し伸べてくださりありがとうございました。ところで、守り紐と聞こえたのですが……」
「あぁ。それのことだよ」
 指さされた手首には、レイラに贈られたブレスレットが着けられていた。
 金糸の混じる組紐で複雑に編み込まれたそれは、レイラの手作りで、旅立つときにレイラ自ら着けてくれたものだった。

「一族の中で伝わるもので、編み方一つ一つに意味があるんだ。それは魔除けと旅の無事を祈るものだね。大切な人が旅立つときに良く贈られるもので、ぼくも持っているよ」
 そう言ってディアンは服の袖をめくって差し出してくる。
 そこには色あせたブレスレットが複数付けられていて、ディアンの長い旅路を思わせた。

「それを身に着けているってことは、一族に縁のある人間だからね。見捨てたら、祖霊に怒られてしまうよ」
 ニコリと笑うディアンに、マリオンの胸がギュッと引き絞られたように苦しくなる。

(レイラ、離れていても君は俺を助けてくれるんだな)
 そっと指先で触れたブレスレットは、不思議と温かい気がした。


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