銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
【エリーゼ視点】
最後の魔獣が地響きを立てて倒れた時、東の地平線から、うっすらと紫色の朝焼けが空を染め始めていた。
「はぁ、はぁ……っ」
私は一気に魔力を解き、その場にへたり込んだ。
全身から汗が噴き出し、指一本動かすのも億劫なほどの疲労感が押し寄せてくる。けれど、胸の中にあるのは、前世の病室で感じていた絶望の疲労ではない。
「自分で戦い、生き抜いた」という、圧倒的な充実感だった。
「エリーゼ!」
大剣を血振りし、背中に背負ったレオンが、血相を変えて私のもとへと駆け寄ってきた。彼はすぐに私の前に膝を突き、私の身体に触れて怪我がないかを確かめる。
「無茶をしやがって……! 魔力を一気に使いすぎだ。どこか痛むところはないか!?」
「ふふ……大丈夫よ、レオン。ちょっと疲れちゃっただけ。……それより、レオンは怪我してない?」
私自身の安全よりも、彼の身体が心配だった。見れば、レオンの左腕の衣服が裂け、うっすらと赤い血が滲んでいる。
「あ、怪我してるじゃない! 動かないで、今すぐ治すから」
私は残った魔力を振り絞り、彼の左腕にそっと手をかざした。私の手のひらから柔らかな聖属性の光が溢れ、彼の傷口を優しく塞いでいく。
「……このくらい、かすり傷だ」
レオンは少し呆れたように、けれどひどく愛おしそうな目で私を見つめていた。
傷が完全に消え去ったのを確認して、私はホッと胸を撫で下ろした。その瞬間、緊張の糸が完全に切れ、私の身体がふらりと前に傾く。
「おっと……本当に限界だな」
レオンの逞しい腕が、私の身体を優しく受け止めた。
彼は私を横抱き(お姫様抱き)にすると、まだ温もりの残るキャンプ地の毛布の上へと、そっと横たえた。
朝焼けの光が、レオンの銀色の髪と耳を黄金色に縁取っている。私を見下ろす彼の琥珀色の瞳には、昨夜の戦闘時の獰猛さは微塵もなく、ただ溢れんばかりの情愛と、隠しきれない熱い独占欲が揺らめいていた。
「エリーゼ。お前は今日、俺の完璧な相棒だった」
レオンは私の頬に、ゴツゴツとした大きな手をそっと添えた。彼の指先の温もりが、私の肌に心地よく染み込んでいく。
「……早く強くなって、あなたの隣を歩きたいなんて言ったけれど。私、今日、少しはあなたに近づけたかしら?」
私が眠気に襲われながらそう問いかけると、レオンはふっと切なげに眉を下げ、私の手に静かに唇を寄せた。
「近づくどころか……俺の心はもう、完全にお前に囚われているよ」
その言葉の本当の意味を、眠気に落ちていく私の脳はまだ正確には理解できなかった。
けれど、繋がれた手の強さと、彼から伝わる圧倒的な安心感の中で、私は幸福な眠りへと落ちていった。
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