銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
暁光の誓いと、牙を伏せる理由
【レオン視点】
荒野の地平線が、燃えるような朱色に染まっていく。
俺は毛布の上で泥のように眠るエリーゼの傍らに腰掛け、ただ静かにその寝顔を見つめていた。
昨夜の激闘の残滓――討ち取った岩狼たちの死骸が転がる凄惨な荒野の中で、彼女の周囲だけが、まるで聖域のように清らかで温かい光に満ちている。
「はぁ、はぁ……っ」
小さな胸が規則正しく上下し、時折、疲労のせいで微かに眉が顰められる。
俺は彼女の額にそっと触れ、乱れた前髪を優しく払い除けた。指先から伝わる彼女の体温が、俺の胸の奥にある獣の衝動を、静かに、けれど苛烈に狂わせていく。
(まさか、本当に俺の背中を守り抜くとはな……)
思い出すのは、黄金の光を放ちながら、岩狼の猛攻を真っ向から防ぎ切った彼女の姿だ。
膝を震わせ、今にも倒れそうなほどの恐怖と戦いながらも、その琥珀色の瞳は決して前を逸らさなかった。
『後ろは通さない!』と叫んだあの凛とした声が、今も耳の奥で心地よく反響している。
元帝国騎士として、俺は数多の戦士たちと背中を預け合ってきた。だが、昨夜のエリーゼほど、俺の魂を 震わせた相棒はいない。
守られるべき、壊れやすい元令嬢。その中身は、誰よりも気高く、誰よりも強い『戦士』だった。
「動かないで、今すぐ治すから」
気絶する寸前だというのに、俺の腕の小さなかすり傷を見つけて、必死に魔法を紡いでくれた小さな手。傷が癒えた瞬間、俺の胸に力なく倒れ込んできた彼女の重みは、言葉にできないほど愛おしく、そして重かった。
「……ずるいな、お前は」
ポツリと、朝の静寂に言葉が零れ落ちる。
俺は彼女の手を引き寄せ、その手のひらに自分の頬をそっと寄せた。
彼女が前世の『白い部屋』で培った、生きることへの圧倒的な執着。それが今、この世界で美しく開花しようとしている。自分で立ち、自分で歩み、自分の力で誰かを守る。その楽しさを知ったばかりの彼女に、俺の『番にしたい』という野生の独占欲をぶつけるわけにはいかない。
今、力ずくで彼女の唇を奪い、俺の匂いを刻み込んでしまえば、彼女は再び、俺という名の『別の檻』に囚われてしまうだろう。
「俺はまだ、牙を隠しておこう」
彼女がこの広い世界を自分の足で味わい尽くし、いつか自然と、俺の胸の中を一番の安住の地だと選んでくれるその日まで。
俺はただの護衛として、優秀な指導者として、彼女の隣に居座り続ける。
(ハルシオンへの道は、まだまだ長い)
これからもっと多くの景色を彼女に見せよう。もっと多くの『初めて』を共有しよう。
俺は彼女の小さな手を毛布の中に仕舞い込むと、立ち上がって愛用の大剣を引き抜いた。朝日にきらめく刃を見つめながら、俺は心の中で、誰にも聞こえない遠吠えをあげるように誓う。
お前が俺の背中を守ってくれたように、俺はお前の未来のすべてを守り抜く。
銀狼の騎士は、静かに愛しい少女の眠りを守るため、再び荒野の風の中に佇むのだった。
荒野の地平線が、燃えるような朱色に染まっていく。
俺は毛布の上で泥のように眠るエリーゼの傍らに腰掛け、ただ静かにその寝顔を見つめていた。
昨夜の激闘の残滓――討ち取った岩狼たちの死骸が転がる凄惨な荒野の中で、彼女の周囲だけが、まるで聖域のように清らかで温かい光に満ちている。
「はぁ、はぁ……っ」
小さな胸が規則正しく上下し、時折、疲労のせいで微かに眉が顰められる。
俺は彼女の額にそっと触れ、乱れた前髪を優しく払い除けた。指先から伝わる彼女の体温が、俺の胸の奥にある獣の衝動を、静かに、けれど苛烈に狂わせていく。
(まさか、本当に俺の背中を守り抜くとはな……)
思い出すのは、黄金の光を放ちながら、岩狼の猛攻を真っ向から防ぎ切った彼女の姿だ。
膝を震わせ、今にも倒れそうなほどの恐怖と戦いながらも、その琥珀色の瞳は決して前を逸らさなかった。
『後ろは通さない!』と叫んだあの凛とした声が、今も耳の奥で心地よく反響している。
元帝国騎士として、俺は数多の戦士たちと背中を預け合ってきた。だが、昨夜のエリーゼほど、俺の魂を 震わせた相棒はいない。
守られるべき、壊れやすい元令嬢。その中身は、誰よりも気高く、誰よりも強い『戦士』だった。
「動かないで、今すぐ治すから」
気絶する寸前だというのに、俺の腕の小さなかすり傷を見つけて、必死に魔法を紡いでくれた小さな手。傷が癒えた瞬間、俺の胸に力なく倒れ込んできた彼女の重みは、言葉にできないほど愛おしく、そして重かった。
「……ずるいな、お前は」
ポツリと、朝の静寂に言葉が零れ落ちる。
俺は彼女の手を引き寄せ、その手のひらに自分の頬をそっと寄せた。
彼女が前世の『白い部屋』で培った、生きることへの圧倒的な執着。それが今、この世界で美しく開花しようとしている。自分で立ち、自分で歩み、自分の力で誰かを守る。その楽しさを知ったばかりの彼女に、俺の『番にしたい』という野生の独占欲をぶつけるわけにはいかない。
今、力ずくで彼女の唇を奪い、俺の匂いを刻み込んでしまえば、彼女は再び、俺という名の『別の檻』に囚われてしまうだろう。
「俺はまだ、牙を隠しておこう」
彼女がこの広い世界を自分の足で味わい尽くし、いつか自然と、俺の胸の中を一番の安住の地だと選んでくれるその日まで。
俺はただの護衛として、優秀な指導者として、彼女の隣に居座り続ける。
(ハルシオンへの道は、まだまだ長い)
これからもっと多くの景色を彼女に見せよう。もっと多くの『初めて』を共有しよう。
俺は彼女の小さな手を毛布の中に仕舞い込むと、立ち上がって愛用の大剣を引き抜いた。朝日にきらめく刃を見つめながら、俺は心の中で、誰にも聞こえない遠吠えをあげるように誓う。
お前が俺の背中を守ってくれたように、俺はお前の未来のすべてを守り抜く。
銀狼の騎士は、静かに愛しい少女の眠りを守るため、再び荒野の風の中に佇むのだった。