銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした

竜の背骨への一歩、そして「先生」の顔

【エリーゼ視点】
荒野の難所を越え、私たちはついに天空都市『ハルシオン』を戴く、巨大な「竜の背骨山脈」の麓へとたどり着いた。
見上げれば、まるで世界の壁のようにそびえ立つ雄大な山々。その山頂付近は白く煙る雲に覆われていて、本当にあの雲の向こうに街があるのだと思うと、胸の高鳴りが止まらなかった。
「エリーゼ、ここからは本格的な登山道になる。昨日教えた魔力の応用、忘れてはいないな?」
馬車を山の麓の宿場に預け、登山用の装備に身を包んだレオンが振り返る。
彼の銀色の髪が山の冷たい風に揺れ、その琥珀色の瞳は、昨日までの「優しい護衛」から「厳格な先生」のそれへと変わっていた。
「ええ、もちろんよ。体内の魔力を足の裏に薄く展開して、地面との接地を高める……こう、かしら?」
私は一歩、険しい岩場に足を乗せてみる。
じわ、と足の裏から黄金色の魔力が染み出し、ゴツゴツとした岩肌にピタリと吸い付くような感覚が走った。これなら、前世の病弱な身体どころか、普通の人間でも滑り落ちそうな急斜面を、驚くほど安定して登ることができる。
「よし、合格だ。魔力のロスも少ない。……だが、過信はするなよ。山の天気と魔獣は、荒野の比ではないからな」
レオンは少しぶっきらぼうに私の頭をぽん、と叩いた。
その「先生」としての容赦のない、けれど確かな信頼が籠もった手のひらの温もりに、私の胸の奥はまたしてもトクンと甘い音を立てる。
(私、ちゃんとレオンの『相棒』になれているのかな……)
一歩ずつ、自分の足で岩を踏みしめて登る。
前世の病院の窓から、ただ遠くの山を眺めて「綺麗だな、行ってみたいな」と涙を流していた私が、今、大好きな人の隣で、自分の力でその山を登っている。これ以上の幸福が、この世界にあるだろうか。
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