銀狼騎士は転生悪役令嬢と番になる運命でした
【レオン視点】
調剤室の中に、エリーゼの放つ清らかな黄金色の光が満ちていく。
窯の中でスカイ・ロータスの青い成分と彼女の聖属性の魔力が美しく混ざり合い、これまで見たこともないほど純度の高い、澄んだ青紫色の薬液が形成されつつあった。
(大したものだ……。この短期間で、これほどの精密な魔力制御を我が物にするとはな)
俺は彼女の成長の早さに舌を巻くと同時に、胸の奥にある独占欲が再び心地よく疼くのを感じていた。
昨夜、テラスで彼女の唇を貪った時の、あの甘く切ない喘ぎ声。俺の首に必死にすがりついてきた、華奢な身体の柔らかさ。一度その味を知ってしまえば、もう二度と「ただの護衛」の距離感には戻れない。
だが、その甘い思考は、廊下の奥から近づいてくる不穏な足音によって一瞬で叩き割られた。
(――チッ。早速嗅ぎつけてきたか)
足音は三人。金属鎧の擦れる音ではないが、足の運びが極めて洗練されている。隠密、あるいは暗殺に長けた者の身のこなしだ。王国の公爵家が放った、リベルタのギルバートとはまた別の「裏の追手」だろう。自由都市とは違い、この天空都市はまだ王国の影響力が微かに及ぶ境界の地でもある。
「エリーゼ、そのまま動くな。あと少しで完成する」
「え、ええ……! でも、レオン、外が――」
「気にするな。お前の後ろには、俺がいる」
俺は大剣の柄を握り直すと、音もなく調剤室の扉を開け、廊下へと滑り出た。
薄暗い廊下の向こう、白い霧が立ち込める中から、黒い外套を身にまとった三人の男たちが姿を現す。彼らの手には、麻痺毒が塗られたと思しき妖しく光る短剣が握られていた。
「ヴァルハイト公爵家の命令だ。娘を連れ戻す。邪魔をするなら――」
「消えろ」
俺は彼らが言葉を紡ぎ終える前に、地を這うような低い声で一喝した。
銀色の耳を倒し、体内から溢れ出る圧倒的な殺気(威圧)を廊下全体に解き放つ。かつて戦場で「銀狼」と恐れられた俺の、牙を剥いた本物の戦闘態勢だ。
昨夜、エリーゼをこの腕に抱き、彼女を俺の『番』だと魂に刻み込んだ。
我が番の髪一筋、未来の欠片一つであっても、害しようとする者は公爵家だろうと王家だろうと、容赦なくその肉を噛みちぎり、骨を砕いてやる。
「これ以上、俺の女に近づくなら、ここを貴様らの墓場にしてやる」
大剣を僅かに抜くと、鋭い金属音が静寂を切り裂いた。男たちは、俺の放つ常軌を逸した殺気の前に、目に見えて恐怖に身体を硬直させ、一歩、また一歩と後退し始めるのだった。
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