恋の練習のはずが、若手社長の溺愛に蕩かされています~声フェチ女子は断れない~

一ヵ月の恋人同士

 それ以来、郁と風早は恋人同士の練習を重ねた。

 休日にはデートをしたし、定時後に食事へ行ったりもした。

 そのうち風早を「玲音さん」と呼ぶようになり、風早からも「郁」になった。

 郁にとって、幸せな日々が続いた。

 なにしろ大好きな声を特別な関係で聴けるのだ。

 一生で一番幸せなひとときかもしれない、とすら思った。

 おまけに玲音は恋人らしいやり方にも慣れて、愛情表現も格段に上達した。

 抱き寄せる、手を握る、名前を囁く……。

『囁く』は郁にとって毎回、心臓を刺激されて刺激が強かったけれど。

 それに玲音の言い方は悪戯っぽかった。

 郁を軽くからかうようなことも言うし、郁は毎回拗ねるのだったが、玲音は楽しんでいるようだ。

 ここだけは苦笑になる郁だったが、そのうちそれすら快くなった。

 ドキドキ跳ねる心臓も、彼からの特別な言葉も、郁の気持ちを少しずつ変えた。

(この時間が練習じゃなければ……いいのに)

 そこまで思うようになった。まるで玲音に恋をしたかのような感情だ。

 でもそんなことは言えるわけがなかった。玲音を困らせるだけだから。

(この時間を堪能できるだけでいいんだから……)

 そのように自分に言い聞かせたけれど、その中の寂しさも自覚していた。
< 15 / 22 >

この作品をシェア

pagetop