あなたの唇、君の皿ー拗れた片思いのその先にー
「あのさあ、陸斗。また付いてる。子供じゃないんだから」
トントン。
自分の唇の端を指先で示すと、陸斗が「ん」と小さく呟いて、ベロと分厚い口の端を舌で舐めた。その瞬間、首の後ろがそわっとして、次にゾクゾクっと美月の背筋に痺れが走る。
ちょっと薄めの唇の端からチラリと出る赤い舌。なんと言ったらいいのかわからない形の柔らかく見えるそれが、また少し形を変えて、チラリと白い歯を覗かせながら上唇までをゆったりと舐める。
その一秒。されど一秒。
美月は、毎回、思わず声が出そうになるのを必死で耐えるしかない。心の中で両手を合わせながら、平然とした顔をして、陸斗の口元をこれでもかと凝視する。
陸斗の唇を舐める仕草が本当にたまらなく好きだ。ついでに流れるように親指でまだ付いてないかを確認するその大きな手も好きだった。
手の甲の筋と節張っている指から目が離せない。
とにかく息が詰まって、胸がギュウっとなる。顔が赤くないか心配してしまうほどに鼓動が速い。
こんなの、他の男の人に一切感じたことはない。
名誉のために言うが、陸斗は普段、とても綺麗に食べる。箸を持つ指は綺麗だし、フォークを刺す時のちょっとした腕の筋もたまらない。ただ一口がとても大きい。もぐ、と詰め込んだあの口の感じもたまらない。かと言って、雑に食べているわけではなくて、しっかりと噛んで、かつ、味わっているのが、細まる目と凛々しい顎の動きでわかる。
その陸斗が、口を汚しやすいものを、わざわざ作って与えている。
山盛りパスタなんてその典型。定食メインのお店なのに、変わり種洋食(大盛り)を提供するのは、「どうぞ汚してください」から。
シュークリームとかエクレアとかソフトシェルバーガーとか。
「おっと……」と陸斗が、手や口についた汚れを咄嗟に舐めてるのなんて、夜に後から思い返しては、ゴロンゴロンとベッドの上で枕を抱えて悶えている。
美月は今日もいいなぁと、さりげなく自分の口元を覆った手のひらの下でニヤニヤしていた。
「ん?まだついてる?」
「あ、ううん。お茶、おかわりどう?」
しかし、ふと顔を上げた陸斗の訝しげな様子に、見すぎかとギクリとする。慌てて逃げ出そうとしたが、先に陸斗が話しかけてきた。
「いいよ。大丈夫。なあ、美月って和食より洋食の方が好きなの?いつも俺に出してくれんの美味いけどさ」
「……えっ?ほら……海上は和食が多いって聞いた、から」
「俺のため?」
曇りなき笑顔が眩しくて、胸が痛む。視線を逸らした。
ごめん、自分の欲望のため。
心の中で懺悔して、早口で誤魔化す。
「う、ううん、裏メニュー的な?……み、未来の旦那様がうちの和食は飽きたと言った時の試食とか……」
突然、かちゃん、と陸斗がフォークをお皿に置く音がした。
見れば、先ほどまでの笑顔が消えていた。急に鋭い視線に晒される。
「は……なに? そういう相手がいんの? みんなからは聞いてないけど」
「えっ、い、いないよ!私がとにかくモテないの知ってるでしょ?」
首を振れば眉間の皺は取れたけれど、機嫌の良いときの彼の表情とは程遠い。
沈黙が奇妙で、気まずい。
いらないと言われたけれども、美月は無理やり湯呑みを持ってやかんの麦茶を入れに行った。
「そういやさ、次はどこに行くか決まった?」
再度椅子に腰掛けて、努めていつも通りの声音で会話を切り出す。
「それな…………実は、……転属、転勤が決まって。来月から山口の倉庫で陸上勤務することになった」
だが、湯呑みを挟んだ向こうからまさかの爆弾が帰ってくるだなんて美月は思ってもいなかった。
トントン。
自分の唇の端を指先で示すと、陸斗が「ん」と小さく呟いて、ベロと分厚い口の端を舌で舐めた。その瞬間、首の後ろがそわっとして、次にゾクゾクっと美月の背筋に痺れが走る。
ちょっと薄めの唇の端からチラリと出る赤い舌。なんと言ったらいいのかわからない形の柔らかく見えるそれが、また少し形を変えて、チラリと白い歯を覗かせながら上唇までをゆったりと舐める。
その一秒。されど一秒。
美月は、毎回、思わず声が出そうになるのを必死で耐えるしかない。心の中で両手を合わせながら、平然とした顔をして、陸斗の口元をこれでもかと凝視する。
陸斗の唇を舐める仕草が本当にたまらなく好きだ。ついでに流れるように親指でまだ付いてないかを確認するその大きな手も好きだった。
手の甲の筋と節張っている指から目が離せない。
とにかく息が詰まって、胸がギュウっとなる。顔が赤くないか心配してしまうほどに鼓動が速い。
こんなの、他の男の人に一切感じたことはない。
名誉のために言うが、陸斗は普段、とても綺麗に食べる。箸を持つ指は綺麗だし、フォークを刺す時のちょっとした腕の筋もたまらない。ただ一口がとても大きい。もぐ、と詰め込んだあの口の感じもたまらない。かと言って、雑に食べているわけではなくて、しっかりと噛んで、かつ、味わっているのが、細まる目と凛々しい顎の動きでわかる。
その陸斗が、口を汚しやすいものを、わざわざ作って与えている。
山盛りパスタなんてその典型。定食メインのお店なのに、変わり種洋食(大盛り)を提供するのは、「どうぞ汚してください」から。
シュークリームとかエクレアとかソフトシェルバーガーとか。
「おっと……」と陸斗が、手や口についた汚れを咄嗟に舐めてるのなんて、夜に後から思い返しては、ゴロンゴロンとベッドの上で枕を抱えて悶えている。
美月は今日もいいなぁと、さりげなく自分の口元を覆った手のひらの下でニヤニヤしていた。
「ん?まだついてる?」
「あ、ううん。お茶、おかわりどう?」
しかし、ふと顔を上げた陸斗の訝しげな様子に、見すぎかとギクリとする。慌てて逃げ出そうとしたが、先に陸斗が話しかけてきた。
「いいよ。大丈夫。なあ、美月って和食より洋食の方が好きなの?いつも俺に出してくれんの美味いけどさ」
「……えっ?ほら……海上は和食が多いって聞いた、から」
「俺のため?」
曇りなき笑顔が眩しくて、胸が痛む。視線を逸らした。
ごめん、自分の欲望のため。
心の中で懺悔して、早口で誤魔化す。
「う、ううん、裏メニュー的な?……み、未来の旦那様がうちの和食は飽きたと言った時の試食とか……」
突然、かちゃん、と陸斗がフォークをお皿に置く音がした。
見れば、先ほどまでの笑顔が消えていた。急に鋭い視線に晒される。
「は……なに? そういう相手がいんの? みんなからは聞いてないけど」
「えっ、い、いないよ!私がとにかくモテないの知ってるでしょ?」
首を振れば眉間の皺は取れたけれど、機嫌の良いときの彼の表情とは程遠い。
沈黙が奇妙で、気まずい。
いらないと言われたけれども、美月は無理やり湯呑みを持ってやかんの麦茶を入れに行った。
「そういやさ、次はどこに行くか決まった?」
再度椅子に腰掛けて、努めていつも通りの声音で会話を切り出す。
「それな…………実は、……転属、転勤が決まって。来月から山口の倉庫で陸上勤務することになった」
だが、湯呑みを挟んだ向こうからまさかの爆弾が帰ってくるだなんて美月は思ってもいなかった。