『君と見つけた、春色の約束』
第三章 はじめてのデート
「じゃあ、またね!」
美緒はそう言って蓮先輩と笑顔で話しながら校舎の方へ歩いていく。
陽斗は一人、その背中をぼんやりと見送っていた。
(……なんだ、このモヤモヤ。)
胸の奥が少しだけ苦しい。
別に美緒は自分の恋人でも何でもない。
大学で出会ったばかりの友達だ。
誰と話そうが自由だし、先輩と仲が良いのだって当然かもしれない。
なのに。
「気になるなんて、変だろ……。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
けれど、その違和感は簡単には消えてくれなかった。
◇
翌日。
昼休みになっても、美緒はいつもの場所に現れなかった。
陽斗はスマートフォンを開いて閉じる。
連絡先は交換している。
『今日は来ないの?』
たった一言送るだけなのに、指が止まる。
(いや、重いか……。)
結局、何も送れないままスマホをポケットへしまった。
「神崎。」
突然、声を掛けられる。
振り向くと、同じ経済学部の男子学生が立っていた。
「俺、藤原蒼太。オリエンテーションで隣だった。」
「あっ……。」
そういえば、少しだけ話した記憶がある。
「一人なら一緒に飯食わない?」
陽斗は少し迷ったが、うなずいた。
「ありがとう。」
学食へ向かう途中、蒼太は気さくに話しかけてくる。
「神崎って静かだけど、結構面白いよな。」
「そうかな。」
「昨日、教授に注意されてたろ?」
「……見てたのか。」
「あれ、教室中が笑ってたぞ。」
思い出して恥ずかしくなる。
「隣の子、美術学科の朝比奈さんだろ?」
「知ってるの?」
「大学じゃ結構有名だよ。絵のコンクールで賞を取ってるらしい。」
「そうなんだ……。」
陽斗は初めて知った。
ただ絵が上手いだけじゃない。
美緒は、自分の夢に向かって努力している人なんだ。
「それに、あの子、誰とでも仲良くなるからな。」
「……そうなんだ。」
その一言が、なぜか少し寂しく感じた。
◇
午後の講義が終わる頃。
「神崎くん!」
ようやく美緒が現れた。
「ごめんね! 今日は教授に呼ばれてて、お昼行けなかった!」
「そうだったんだ。」
それだけ聞いて、胸のつかえがすっと取れる。
「怒ってる?」
「いや。」
「本当?」
「本当。」
美緒は安心したように笑った。
「よかったぁ。」
その笑顔を見ると、さっきまでの不安が嘘みたいに消えていく。
「そうだ!」
美緒が何かを思いついたように目を輝かせた。
「今度の日曜日って予定ある?」
「特には。」
「水族館、一緒に行かない?」
「水族館?」
「チケット二枚もらったの。でも友達みんな予定が合わなくて。」
陽斗は一瞬、言葉を失う。
「嫌ならいいんだけど……。」
「いや!」
思わず大きな声が出た。
周りの学生がこちらを見る。
「あ……ごめん。」
美緒はくすっと笑った。
「そんなに大きな声出さなくても。」
「その……行く。」
「本当に?」
「うん。」
「やった!」
美緒は両手を胸の前で合わせて飛び跳ねた。
「楽しみ!」
その姿があまりにも嬉しそうで、陽斗まで笑ってしまう。
◇
日曜日。
待ち合わせは駅前。
約束の十分前。
陽斗は落ち着かず、何度も腕時計を見ていた。
(早く来すぎた……。)
大学に入って初めての休日。
しかも、女の子と二人きり。
これを「デート」と呼んでいいのかは分からない。
でも。
(……デート、だよな。)
そう考えるだけで心臓が速くなる。
「お待たせ!」
振り返った瞬間、陽斗は息をのんだ。
白いワンピースに淡いピンクのカーディガン。
髪はいつもより少しだけ巻かれ、小さな花のイヤリングが揺れている。
大学で見る美緒とは少し違う、大人びた雰囲気。
「どうかな?」
照れくさそうにスカートの裾をつまむ。
「変じゃない?」
「…………。」
陽斗は言葉が出なかった。
「神崎くん?」
「……すごく、似合ってる。」
一瞬の沈黙。
そして。
「えっ……。」
美緒の頬がみるみる赤く染まる。
「あ、ありがとう……。」
二人とも照れてしまい、気まずそうに視線をそらした。
その空気が、なんだか心地よい。
「じゃあ、行こっか。」
「うん。」
並んで歩き始める。
肩が触れそうな距離。
でも、お互いに少しだけ意識してしまって、その距離は縮まらない。
それでも――。
今日だけは、大学で過ごす時間とは違う。
二人だけの、特別な一日が始まろうとしていた。
そして陽斗はまだ知らない。
この水族館での出来事が、二人の関係を大きく変えるきっかけになることを。
美緒はそう言って蓮先輩と笑顔で話しながら校舎の方へ歩いていく。
陽斗は一人、その背中をぼんやりと見送っていた。
(……なんだ、このモヤモヤ。)
胸の奥が少しだけ苦しい。
別に美緒は自分の恋人でも何でもない。
大学で出会ったばかりの友達だ。
誰と話そうが自由だし、先輩と仲が良いのだって当然かもしれない。
なのに。
「気になるなんて、変だろ……。」
自分に言い聞かせるようにつぶやく。
けれど、その違和感は簡単には消えてくれなかった。
◇
翌日。
昼休みになっても、美緒はいつもの場所に現れなかった。
陽斗はスマートフォンを開いて閉じる。
連絡先は交換している。
『今日は来ないの?』
たった一言送るだけなのに、指が止まる。
(いや、重いか……。)
結局、何も送れないままスマホをポケットへしまった。
「神崎。」
突然、声を掛けられる。
振り向くと、同じ経済学部の男子学生が立っていた。
「俺、藤原蒼太。オリエンテーションで隣だった。」
「あっ……。」
そういえば、少しだけ話した記憶がある。
「一人なら一緒に飯食わない?」
陽斗は少し迷ったが、うなずいた。
「ありがとう。」
学食へ向かう途中、蒼太は気さくに話しかけてくる。
「神崎って静かだけど、結構面白いよな。」
「そうかな。」
「昨日、教授に注意されてたろ?」
「……見てたのか。」
「あれ、教室中が笑ってたぞ。」
思い出して恥ずかしくなる。
「隣の子、美術学科の朝比奈さんだろ?」
「知ってるの?」
「大学じゃ結構有名だよ。絵のコンクールで賞を取ってるらしい。」
「そうなんだ……。」
陽斗は初めて知った。
ただ絵が上手いだけじゃない。
美緒は、自分の夢に向かって努力している人なんだ。
「それに、あの子、誰とでも仲良くなるからな。」
「……そうなんだ。」
その一言が、なぜか少し寂しく感じた。
◇
午後の講義が終わる頃。
「神崎くん!」
ようやく美緒が現れた。
「ごめんね! 今日は教授に呼ばれてて、お昼行けなかった!」
「そうだったんだ。」
それだけ聞いて、胸のつかえがすっと取れる。
「怒ってる?」
「いや。」
「本当?」
「本当。」
美緒は安心したように笑った。
「よかったぁ。」
その笑顔を見ると、さっきまでの不安が嘘みたいに消えていく。
「そうだ!」
美緒が何かを思いついたように目を輝かせた。
「今度の日曜日って予定ある?」
「特には。」
「水族館、一緒に行かない?」
「水族館?」
「チケット二枚もらったの。でも友達みんな予定が合わなくて。」
陽斗は一瞬、言葉を失う。
「嫌ならいいんだけど……。」
「いや!」
思わず大きな声が出た。
周りの学生がこちらを見る。
「あ……ごめん。」
美緒はくすっと笑った。
「そんなに大きな声出さなくても。」
「その……行く。」
「本当に?」
「うん。」
「やった!」
美緒は両手を胸の前で合わせて飛び跳ねた。
「楽しみ!」
その姿があまりにも嬉しそうで、陽斗まで笑ってしまう。
◇
日曜日。
待ち合わせは駅前。
約束の十分前。
陽斗は落ち着かず、何度も腕時計を見ていた。
(早く来すぎた……。)
大学に入って初めての休日。
しかも、女の子と二人きり。
これを「デート」と呼んでいいのかは分からない。
でも。
(……デート、だよな。)
そう考えるだけで心臓が速くなる。
「お待たせ!」
振り返った瞬間、陽斗は息をのんだ。
白いワンピースに淡いピンクのカーディガン。
髪はいつもより少しだけ巻かれ、小さな花のイヤリングが揺れている。
大学で見る美緒とは少し違う、大人びた雰囲気。
「どうかな?」
照れくさそうにスカートの裾をつまむ。
「変じゃない?」
「…………。」
陽斗は言葉が出なかった。
「神崎くん?」
「……すごく、似合ってる。」
一瞬の沈黙。
そして。
「えっ……。」
美緒の頬がみるみる赤く染まる。
「あ、ありがとう……。」
二人とも照れてしまい、気まずそうに視線をそらした。
その空気が、なんだか心地よい。
「じゃあ、行こっか。」
「うん。」
並んで歩き始める。
肩が触れそうな距離。
でも、お互いに少しだけ意識してしまって、その距離は縮まらない。
それでも――。
今日だけは、大学で過ごす時間とは違う。
二人だけの、特別な一日が始まろうとしていた。
そして陽斗はまだ知らない。
この水族館での出来事が、二人の関係を大きく変えるきっかけになることを。