『君と見つけた、春色の約束』

第九章 冬のイルミネーション

 十二月。

 街はすっかり冬の景色へと変わっていた。

 駅前には大きなクリスマスツリーが飾られ、色とりどりのイルミネーションが夜の街を優しく照らしている。

 大学のキャンパスにも冬の風が吹き抜け、吐く息は白く染まる。

 あの日、お互いの気持ちを確かめ合ってから、陽斗と美緒は恋人になった。

 最初は照れくさくて、「恋人」という言葉にさえ慣れなかった二人。

 手をつなぐだけで顔を真っ赤にし、周りの学生に見られるたびに恥ずかしくなってしまう。

 それでも、その一つひとつが幸せだった。

 ◇

「神崎くん!」

 講義が終わると、美緒が駆け寄ってくる。

「今日の帰り、時間ある?」

「あるよ。」

「じゃあ、イルミネーション見に行こう!」

 そう言って、子どものように笑う。

 陽斗も自然と笑みを浮かべた。

「うん。行こう。」

 ◇

 夕方。

 二人は駅前の広場へ向かった。

 何万個ものLEDが木々を彩り、広場全体が宝石箱のように輝いている。

「すごい……。」

 美緒は思わず足を止めた。

「写真で見るよりきれい。」

 イルミネーションの光が、美緒の瞳に映り込む。

 その横顔を見つめながら、陽斗は静かに思った。

(この景色より、君の笑顔のほうがきれいだ。)

 そんなことを言える勇気は、まだないけれど。

「寒いね。」

 美緒が両手をこすり合わせる。

「手……冷たい。」

「じゃあ。」

 陽斗は少しだけためらいながら右手を差し出した。

「つなぐ?」

 一瞬の沈黙。

 美緒は照れ笑いを浮かべる。

「……うん。」

 そっと重なる二人の手。

 少し冷えていた指先が、ゆっくりと温もりを取り戻していく。

「こうしてると、あったかいね。」

「そうだね。」

 恋人になって初めての手つなぎ。

 お互いに照れて何度も顔を見合わせ、そのたびに笑ってしまう。

 ◇

 広場のベンチでホットココアを飲みながら、二人は静かに夜景を眺めていた。

「留学まで、あと三か月か……。」

 美緒がぽつりとつぶやく。

 その言葉に、陽斗の胸が少しだけ締めつけられる。

「早いね。」

「うん。」

 少しだけ沈黙が流れた。

「神崎くん。」

「ん?」

「離れても、不安にならない?」

 陽斗は少し考え、静かに答える。

「不安だよ。」

「……。」

「でも、それ以上に信じてる。」

 美緒は目を丸くした。

「美緒なら夢を叶えられるって。」

「神崎くんなら待っていてくれるって。」

 美緒の目に涙が浮かぶ。

「だから大丈夫。」

 陽斗は優しく微笑んだ。

「約束しただろ。」

「卒業の日、この桜の木の下でまた会うって。」

 美緒は何度もうなずいた。

「うん……!」

 ◇

 その帰り道。

 雪がちらちらと降り始めた。

「雪!」

 美緒は空へ手を伸ばす。

「今年の初雪だ。」

「ホワイトクリスマスになるかもね。」

「そうかも。」

 すると、美緒が急に立ち止まった。

「神崎くん。」

「どうした?」

 美緒は少し背伸びをして、陽斗のマフラーを整える。

「風邪ひいちゃだめだから。」

 その距離の近さに、陽斗の心臓はまた速くなる。

「ありがとう。」

「えへへ。」

 二人は照れながら笑い合った。

 その瞬間。

 イルミネーションが一斉に色を変え、夜空へと光が広がる。

「きれい……。」

 美緒は陽斗の肩にそっと寄り添った。

 陽斗も、そっと肩を寄せ返す。

 言葉はいらなかった。

 この時間が、ずっと続けばいい。

 二人とも同じことを願っていた。

 けれど、春は確実に近づいている。

 夢へ向かう旅立ちの日も、そして約束の日も。

 そのすべてを乗り越えた先に、本当の「春色の約束」が待っている。
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