スパダリの溺愛はスーツを着崩すように
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。

「遼さん、そろそろ帰りますね」
「送る」

まだ帰ってほしくない。
まだ側にいてほしかった。

それだけの言葉が言えなかった。

玄関に行くと俺は、

「彩乃…もう一度抱きしめていいか?」

彩乃が頷く。

そして今度は少しだけ強く抱きしめた。
背中に回された小さな手が愛おしい。
まだ離したくない。
俺は彩乃が好きだと再確認した。


「帰したくなくなる」


「…遼さん」


少し強く抱きしめ返された。
彩乃も離れたくないないのかもしれない。
俺は離れて彩乃の目を見る。


キスしたい。


彩乃が俺を見上げている。
唇に触れそうな手前で止めた。
大事にしたい。
すると彩乃がそっと目を閉じた。


俺はそっと唇を重ねた。


一度だけ。


もう一度触れたいと思ったが自制した。


「今のは恋人のフリに必要だったんだ…」


意味のわからない言い訳をした。
かっこ悪いがこの楽しかった時間を崩したくなかった。
今はまだ甘く酔いしれていたかった。
なのにまた切なさがこみ上げた。


「はい…」


送ると車の中では甘い気まずさで包まれた。

21時。

彩乃が家に入ったのを確認してから車を出す。
あのキスが恋人のフリに必要な訳ないだろ…俺が触れたかっただけだ。
もうこの気持ちを止められそうにない。
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