完璧すぎる彼氏

母が残した真実

第19話 「母が残した真実」

祖母の家を訪れてから数日後。

仕事を終えた花音は、蒼真の会社を訪れていた。

応接室で待っていると、受付の女性が困ったような表情で近づいてくる。

「社長にお客様です。」

「お約束は?」

「……ありません。」

その言葉と同時に、応接室の扉が開いた。

「久しぶりね。」

あの日、モデルハウスに現れた女性だった。

蒼真の表情が一瞬で変わる。

「どうして会社まで来た。」

低く冷たい声。

女性はゆっくりソファへ腰を下ろした。

「話があるの。」

「俺にはありません。」

「でも、この人にはあるわ。」

女性は花音へ視線を向ける。

「あなた、蒼真の過去を知っている?」

花音は静かに首を横に振った。

「ほとんど知りません。」

「そう。」

女性は小さく笑う。

「なら教えてあげる。」

「やめてください。」

蒼真が立ち上がる。

しかし女性は構わず話し始めた。

「私は蒼真の叔母。」

「……。」

「そして、蒼真の母の姉よ。」

部屋の空気が重くなる。

「私は妹を憎んでいた。」

花音は息をのむ。

「家族を捨て、子どもまで置いて姿を消した。」

女性の瞳には、今も消えない怒りが宿っていた。

「だから私は、蒼真を見るたび妹を思い出した。」

蒼真は何も言わない。

ただ静かに話を聞いている。

「最低よね。」

女性は自嘲するように笑った。

「悪いのは妹なのに、私はその怒りをあなたへぶつけた。」

長い沈黙が流れる。

「何度も謝ろうと思った。」

女性の声が少し震える。

「でも、そのたびにあなたは立派になっていく。」

「……。」

「謝る資格なんて、もうないと思った。」

花音は初めて知った。

この人は意地悪だから蒼真を傷つけたわけではない。

憎しみに飲み込まれ、自分の弱さから逃げ続けてきた人だった。

蒼真は静かに口を開く。

「今日は、その話をするために来たんですか。」

女性は首を横に振る。

バッグから一つの茶封筒を取り出した。

「違う。」

封筒をテーブルへ置く。

「これは……あなたのお母さんが亡くなる前に残したもの。」

蒼真も花音も、言葉を失う。

「亡くなる前……?」

「ええ。」

女性は静かにうなずいた。

「妹は最後まで、あなたに会いたがっていた。」

蒼真の手が小さく震える。

ずっと「捨てられた」と思っていた母。

その母が、自分に何かを残していた――。

封筒の上には、少し色あせた文字でこう書かれていた。

『蒼真へ』

その文字を見つめたまま、蒼真は動けなかった。
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