完璧すぎる彼氏

人生を変えた決意

第6話 「人生を変えた決意」

「社長、この物件の契約書です。」

「ありがとう。」

蒼真は書類に目を通し、迷いなくサインをした。

「これで三軒目ですね。」

社員が笑顔で言う。

「今度は駅から近いので、すぐ決まりそうです。」

「そうだな。」

穏やかに答えながらも、蒼真の視線は窓の外へ向いていた。

古いアパート。

取り壊し予定の空き家。

それを見るたびに、昔の自分を思い出す。

――帰る場所がない。

あの頃の苦しさは、今も消えていない。



父に引き取られた日のことは、今でも鮮明に覚えている。

「一緒に帰ろう。」

父はそう言って、静かに手を差し伸べた。

その温もりを信じるまでには時間がかかった。

それでも父は焦らず、少しずつ家族になってくれた。

高校を卒業すると、父は言った。

「会社を継がないか。」

誰もが羨む話だった。

だが蒼真は首を横に振る。

「自分の力で生きたい。」

父は驚いたあと、静かに笑った。

「そうか。なら、とことんやってみろ。」

大学へ進学した蒼真は、一年生で宅地建物取引士の資格を取得した。

講義が終わればアルバイトへ向かい、深夜まで働く。

遊ぶ時間も、休む時間も惜しかった。

貯めたお金で買ったのは、誰も見向きもしない古い空き家。

友人たちは笑った。

「そんなボロ家、何に使うんだ?」

蒼真は笑って答えた。

「家は、人と同じなんだ。」

「え?」

「壊れているように見えても、手をかければ、また誰かの大切な場所になれる。」

休日になると、仲間と一緒に壁を塗り、床を張り替え、庭の草を抜いた。

完成した家を見た若い夫婦が、涙ぐみながら言った。

「やっと家族で暮らせる家が見つかりました。」

その言葉を聞いた瞬間、蒼真は確信した。

――この仕事を、一生続けよう。

利益を出すことも大切だ。

けれど、それ以上に大切なのは、誰かに「帰りたい」と思える家を届けること。

それが、自分にしかできない仕事だと信じていた。

そして、その原点には、いつも一人の女性がいた。

「花音……。」

誰にも聞こえないほど小さな声で、その名前を呼ぶ。

あの日、何気ない優しさで自分を救ってくれた彼女は、きっと知らない。

自分の人生が変わった理由が、彼女だったことを。
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