完璧すぎる彼氏

あの日の約束

第9話 「あの日の約束」

翌週の日曜日。

「今日は現場じゃないんだ?」

珍しくスーツではなく、ラフな服装の蒼真に花音は笑った。

「今日は一日、花音と過ごしたい。」

そう言って差し出された手を、花音は照れながら握る。

二人が向かったのは、大きな公園だった。

子どもたちの笑い声が響き、芝生では家族連れが思い思いの時間を過ごしている。

「ここ、好きなの?」

花音が尋ねると、蒼真は静かにうなずいた。

「ああ。大切な場所なんだ。」

その言葉の意味は分からなかった。

ベンチに腰掛けると、風が木々を揺らす。

「花音。」

「ん?」

「人って……たった一人の言葉で人生が変わることがあると思う?」

突然の質問に、花音は少し考えた。

「あると思うよ。」

「どうして?」

「落ち込んでるときに『大丈夫』って言われるだけでも救われることがあるから。」

蒼真は優しく目を細めた。

「そうだな。」

その笑顔はどこか懐かしそうだった。

少し離れた場所では、小学生くらいの男の子が転んで泣いている。

花音は迷わず立ち上がり、その子のところへ駆け寄った。

「大丈夫?」

ハンカチで膝を拭き、優しく笑いかける。

「痛かったね。でも、ちゃんと立てたね。」

男の子は涙を拭きながら、小さく笑った。

「ありがとう!」

母親がお礼を言い、親子は手をつないで帰っていく。

その光景を見つめる蒼真の瞳が、ゆっくり潤んだ。

――変わらない。

困っている人を見つけると、迷わず手を差し伸べる。

見返りなんて求めない。

あの日と同じだ。

「蒼真?」

花音の声で我に返る。

「どうしたの?」

「……いや。」

蒼真は小さく笑った。

「やっぱり花音は花音だなって思って。」

「何それ?」

「褒めてる。」

花音は照れくさそうに笑い、肩を軽くたたく。

その何気ない仕草さえ、蒼真には愛おしかった。

彼女は知らない。

高校二年の秋。

雨の日の校舎裏で、一人しゃがみ込んでいた少年に、

『大丈夫?』

そう声をかけたことを。

あの日から蒼真の時間は止まり、そして動き始めたことを。

花音は覚えていない。

けれど蒼真だけは、一日たりとも忘れたことがなかった。
< 9 / 30 >

この作品をシェア

pagetop