王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
 それでもすぐに「はい」とは言いたくなかった。もう少し考えて悩んでから、返事をしたい。それが、ただのわがままだとわかっていても。
「そんな顔をするな」
 オディロンの骨張った手が、エメリーネの頬を包む。
「そんなに俺との結婚は、嫌か?」
 エメリーネは答える代わりに、静かにまつげを伏せる。嫌じゃないから、嫌なのだ。
「……わかった。五日だけ待ってやる。五日後にまた、同じ時間にここに来い。先触れなど不要だ」
 エメリーネの頬を覆っていた熱が離れていく。
 戻るぞ、とオディロンに促され、エメリーネは静かに立ち上がった。

 ベルジュ公爵邸を後にしたエメリーネは、王城へ戻る前に聖堂へ寄るようにと御者に伝えた。すでに太陽は西側に大きく傾き、空を橙色に染めている。この時間であれば、告解室でテレジア神と話もできるだろう。
< 141 / 154 >

この作品をシェア

pagetop