王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
 大広間へと続く回廊で、エメリーネはビシッと声をかける。
「ああ、そうだな。今日はおまえの晴れの日だ。世界中の誰よりも美しいよ」
「まあ、お父様ったら。そう言って、お母様を口説いたのでしょう?」
 国王が王妃を溺愛していたというのは、有名な話だ。そんな二人の間に生まれたエメリーネも、両親の深い愛情を注がれて育った。
 だから、籠の中の鳥でもあった。この世界の醜いものには触れないようにと、この十七年間、蝶よ花よと大切に育てられた。
 でも心は違う。両親を失い、人の悪意に晒され、暴言や罵倒も辞さない二十二歳のエメリーネである。
 大広間の扉の前には侍従や騎士らがずらりと並んでいた。彼らの前を通り過ぎれば、恭しく頭を下げてくる。
 またエメリーネは、彼らがそれぞれ違う色の空気をまとっていることに気がつく。
 騎士の一人は黄色、とある侍従は灰色、別の者は白や緑、黄色だが、シーラや父王からはその色のある空気が見えない。
 そしてアルマスは黒で彼の秘書官は灰色だった。
(人によって色が違う……? それに、なぜ色のある人とない人がいるの?)
 不思議に思うが、今はそれどころではない。
 アルマスの黒色が脳裏をよぎった。あの不気味な感覚は、思い出しただけでも身震いしてしまう。
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