王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
 彼の声は低く、非常に落ち着いていた。
 手を取られたまま、エメリーネは彼を見下ろす。軍服に身を包んだ彼は、絹や金糸で飾られた正装の貴族たちとは異なり、戦塵にまみれた雰囲気を漂わせていた。
「ベルジュ公爵。そのような出で立ちで王女様のパーティーに出席するなど、不敬では?」
 鋭い声が割り込んだ。アルマスだ。彼はまるで獲物を狙う肉食獣のように、隙あらばオディロンを貶めようとしている。
 会場に集う貴族たちの視線が一斉にこちらに集まり、空気がぴんと張り詰めた。
 エメリーネの胸に、苛立ちと同時に不安がよぎったが、きゅっと表情を引き締める。
「おやめなさい、アルマス」
 エメリーネの凛とした声色が響いた。
「彼はこの国のために軍を率いて戦ってくれたのです。それなのに、わたくしのパーティーに間に合うようにと、国境から馬を飛ばしてきたのでしょう? 臣下の鑑ではありませんか?」
 エメリーネは絹のハンカチで、オディロンの耳元の血痕をそっと拭い、優雅にしまう。群衆が息をのむ中、艶やかに微笑んだ。
「喜んで、あなたの誘いをお受けいたします」
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