王女エメリーネに悪女は似合わない~軍人公爵の盲愛に囚われて
「こちらの部屋をお使いください。すぐに侍医を呼んでまいります」
 エメリーネが通された部屋は、休憩室として開放されている客室の中でも、最も上等な部屋。王族が招待客と密談するときに使う部屋だと記憶している。壁には金箔の装飾が施され、天窓からは月光が柔らかく差し込んでいる。
 もしかしたら、父王も後でこの部屋を使うつもりだったのかもしれない。部屋の隅には、数人のメイドが控えめに立っており、彼女たちのオーラは緑や黄色の穏やかな色合いで揺れていた。
 二人きりではないが、ひそやかな内緒話ならメイドたちに聞こえることはないだろう。
「ありがとうございます」
 ソファに下ろされる前に、彼の耳元でそっとささやいた。
「怪我をさせたというのに、礼を言うとは変わった姫様だな?」
 エメリーネをソファにゆっくりと下ろし、にやりと笑ったオディロンだが、その言葉が本心でないことなどわかっている。
 彼の瞳には、秘密を共有するいたずらっ子のような輝きがあったし、それに口調が元に戻っている。
「だって、わたくしをあの場から連れ去ってくださったでしょう? それにあれだけ騒いでは、これ以上、わたくしがダンスをできないと、誰もが理解したでしょうね」
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