アンドロイド総務部員(※心の中はエセ関西弁)は、一途なチャラ男の底なし沼から抜け出せない
【第76話】氷室視点
月曜日。会社での律さんは、相変わらずサックスブルーの制服に身を包み、完璧な「総務部監査官」の顔をしてデスクに向かっている。
だけど、俺には分かっていた。たまに俺が営業部の書類を届けにいくと、律さんは一瞬だけ眼鏡の奥の目を丸くして、それから誰にも気づかれないくらいの速度で、コクンと小さく頷いてくれるのだ。
(あの会社での『秘密の合図』、たまらんくらい可愛いな……)
仕事が終わり、付き合い始めてから数ヶ月が経った秋の週末。俺たちは、近所に新しくできたインテリアショップへと足を運んでいた。
「律さん、このペアのマグカップ、可愛くない? こっちが律さんで、こっちが俺」
「あ……はい、すごく素敵です。あの、私、先輩とお揃いのもの、もっと増やしたいです……」
律さんはそう言うと、俺のセーターの袖をきゅっと掴み、上目遣いで照れくさそうに微笑んだ。
以前の彼女なら、「実用性とコストパフォーマンスの観点から――」なんて理屈を並べていたかもしれない。だけど今の律さんは、自分の「好き」や「嬉しい」という感情を、俺の前で100%素直に表現してくれる。
「ねぇ、律さん。もうさ、いっそのこと一緒に暮らさない? 週末だけじゃなくて、毎日、朝起きた時から夜寝る時まで、ずっと一緒にいたい」
ショップの隅で、俺がずっと温めていた提案を口にすると、律さんは驚いたようにパチパチと瞬きをした。
そして、みるみるうちに顔を真っ赤にして、だけど力強く、俺の手をぎゅっと握り返してきた。
「はい……っ! 私も、先輩と毎日、同じ空間にコミットしたいです……!」
嬉しさが爆発して、思わずその場で律さんを強く抱きしめそうになった。周りの目があるからなんとか理性を保ったけれど、俺たちの恋のシステムは、いよいよ「同棲」という次のステージへ向かって、最高出力でアップデートされようとしていた。
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